練習の時は、いつも私の後頭部の30センチ程上から、オキヨさんの歌う声が聞こえてきた。実に素晴らしい、いいお声だった。これぞセカンド・テナーの歌声、そのものだった。
練習が終わり、「アフター」を始めるべく、各自が3階のお部屋にお邪魔すると、台所で忙しく、ハムやピーナッツなどをお皿に盛り付けしている、オキヨさんの姿がそこにあった。
やがてメンバーが増え場所が手狭になると、会場を他所に変えようか、という声が聞こえるようになった。そんな或る時、「練習場を変えるんなら俺は参加しないぞ」と、オキヨさんが言った。
その声は、私のほか、ごく周りの人にしか聞こえない大きさの声だった。やがて何時の間にか、練習場所変更の話は消えていった。考えてみれば、至極尤もな事だった。練習が終わって、大勢が乾いた喉を潤すのに10数分しか要しない場所は此処しかない。
練習前に、寺田さんや小林君などが近くのスーパーで買い整えて呉れた、ビール・ワイン・おつまみ等が出され、「乾杯!」で始まる「しあわせ」なひと時!時には井上先生に贈られてきた高級ワイン迄出てきたりもした。
あの絶賛を博した“ U BOj!”を歌った演奏会が終わってから、家庭の事情で、私が「休団願」をお届けするため、オキヨさんのお宅を訪れた時、色々とお話をお伺いする事が出来た。
あれからもう何年経つだろうか。今でもあの時のお顔がそのまま目に浮かんできます。
オキヨさん、どうぞ安らかにお眠りください。
(2022/2/16)
|