リレー随筆コーナー

よみがえる楽友会の記憶


中 達哉(27期)


私は昭和57年に大学を卒業してから合唱とはほぼ無縁の生活を送っていました。ところが、2年前に同期で仙台に旅行した際、スタジオを借りて歌おうという話になって、学生指揮者をしていた私が指揮をすることになりました。空き家になっている実家から、ぼろぼろの愛唱歌集を探し出し、ながめているうちに楽友会当時のことを思い浮かべました。

私は高校時代にも合唱をしていましたが、指揮者に求められる技能・知識は十分ではありませんでしたので、難行苦行の連続でした。

初めの試練は3年生の春のことでした。六連演奏会においてストラヴィンスキーの「結婚」を演奏し、楽友会と六連合同練習でその下振りをしました。この曲は変拍子が多く、8分の3、8分の5、8分の7拍子が頻繁に登場します。リズムを間違えないように楽譜を凝視するため、歌っている人に目が行き届かなったことを覚えています。

4年生の30回記念定演で演奏したブラームスの「ドイツレクイエム」の下振りも苦難続きでした。ブラームスが作曲した曲を数多く聴き、ブラームスがこの曲で何を表現したかったのかを追求しようとしましたが、聴けば聴くほど頭を抱えるばかりでした。また、フランス語を第二外国語に選択した私にとって、ドイツ語は難解でした。この時ほどドイツ語を履修しておけばよかったと後悔したことはありません。

私が六連などのステージで指揮した曲は「黒人霊歌集」です。東京文化会館の資料室に通うなどして、「深い河」、「ジェリコの戦い」、「誰もわたしの悩みを知らない」、「時には母のない子のように」、「ギリアドの香油」の5曲を選曲しましたが、ここでも語学に悩まされます。黒人特有の英語の発音です。先輩のアドバイスも受けながら、黒人の悩みや苦しみ、祈りをどのように表現していくかを私なりに考え抜いてステージに臨んだことを思い出しました。

あれから35年の月日が流れ、歌を純粋に楽しんでいます。毎年、同期で集まるときには、カレッジソングから歌い始めます。カレッジソングは「塾歌」、「若き血」などいずれも愛着がありますが、中でも好きな曲は、「慶應讃歌」です。3番の歌詞が特に好きで、思わず涙腺がゆるみます。カレッジソングの他では、「学生歌」と「緑の森よ」が好きです。「学生歌」は学生時代の元気を呼び起こし、「緑の森よ」は美しい旋律と歌詞に癒されます。そして最後に歌うのが「青春讃歌」です。「青春讃歌」は楽友会時代の思い出が詰まった歌で、楽しかったこと、苦しかったことが脳裏に浮かんでは消えていきます。


吉原弘尚、西脇典彦、笹倉恵津夫、中 達哉、宇都宮(旧姓佐藤)日美、渋谷康一郎(2016)

こうして、同期で集まるときには愛唱歌集から楽友会時代の記憶がよみがえります。来年、集まる時にはどんな記憶がよみがえってくるか楽しみです。

次は同期の宇都宮日美さん(副幹事長)にバトンを渡したいと思います。

(2016/12/12)

    


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