リレー随筆コーナー

全日本合唱コンクール全国大会



平鹿 一久(30期)



30期の平鹿一久です。私は全日本合唱コンクールについて書きたいと思います。

合唱コンクールというと、細部にこだわった面白みのない演奏、審査受けする難曲のオンパレードという印象をお持ちではないでしょうか。私も長いことそう思っていた一人なのですが、実は、少なくともここ数年の一般部門では、そんなことはないのです。

音楽を楽しむ場としても、得難いところ。そんな一端をご紹介できたらと思います。


今年の全国大会表彰式の1シーン

私は、Cantus Animae(カントス・アニメと読みます。魂の歌という意味のラテン語。以下CA)という合唱団に、この団が作られた18年前から参加しています。幸い、最近5年間連続して全日本合唱コンクールの全国大会に出場しています。

コンクールは、3年前まで大学部門、職場部門、一般部門A(32人以下)、一般部門B(33人以上)に分かれていましたが、2013年からは大学ユースの部、室内合唱の部、同声合唱の部、混声合唱の部に変更になりました。職場部門の参加団体が大幅減少したなどの状況変化を反映したそうです。

CAは、一般部門B、そして混声合唱の部に東京支部代表として出場しました。

まずは選曲です。今年の混声合唱の部の金賞受賞団体(5団体あります)が自由曲に選んだのは三善晃、信長貴富、ラインベルガー、ブラームス、シェーンベルクといった作曲家の曲でした。CAは、ドイツレクイエムの第二楽章をブラームス自身の編曲による4手のピアノ伴奏版で演奏しました。今年一位金賞だった合唱団は、今年は三善晃作曲の「嫁ぐ娘に」、昨年はマルタン作曲のミサから「Credo」を演奏しています。

多彩で、そして後世に歌い継がれるべき名曲が選ばれているのだと感じます。

次に、演奏スタイル。例えば、関西代表の合唱団は、振り付け付きで演奏していました。どの団も順位を競うというより、演奏を楽しんでいるという雰囲気が伝わってきます。

指揮者から一瞬たりとも目を離さないで歌っている合唱団もありますが、一人一人が主体的に表現者になっている合唱団の方が観客にも審査員にもウケているようです。

会場の雰囲気は大変暖かいものがあります。今年の全国大会は長崎、昨年は高松で開催されましたが、毎回、数百人の方が全国から駆け付けます。出演者に近親者などいない純粋な合唱ファンの方がです。ある人は自身のblogで、コンクールに出場する全合唱団の詳細な紹介をしています。それを見ると各合唱団のプロフィールの他、どんな思いで曲つくりをしてきたか解るようになっています。また、部門別の全演奏を聞いた観客が投票する「観客賞」という全く自主的な企画もあります。その結果はblogで公開されるのですが、合唱を愛する人の熱く、暖かいメッセージを読み取ることができます。

合唱団の連帯感についても触れないわけにはいきません。10年前から「史上かつてない二次会」という飲み会が行われています。ある合唱団の指揮者が、「コンクールは競うものだけど、終わった後はノーサイドとして合唱団の垣根を越えて交流を深めようじゃないか!」ということで始まったそうです。今年も数百人の合唱仲間が集まりました。各団が自己紹介をし、お互いの演奏を称えあい、最後は、全員で合唱して終わりとなります。


今年の史上かつてない二次会の様子

最後に、今年の審査講評をされた磯山雅先生の言葉をご紹介したいと思います。「合唱は日本の音楽の最大の担い手であるという思いを強めました。一人ひとりが輝き、合唱することでさらに輝きを増していました。」

コンクールに出場することは合唱活動の選択肢の一つにすぎませんが、私は、コンクールを通じて貴重な経験をすることができたのでした。

次は、27期の辻井先輩にバトンをお渡しいたします。(2015/12/27)

    


編集部注 またまた、2週間もたたないうちに平鹿君から原稿が届きました。2015年後半のリレーは見事でした。年が明けてもこの素晴らしいバトンリレーをお願いします。

「魂の歌」という言葉を見て、ブラジルの古いヴォーカル・グループOs Cariocasを思い出しました。以前にも編集ノートで紹介しましたが、そのグループの1人とはメールのやり取りが続いています。彼らのホームページには「われわれは魂で歌います」と書いてありました。(2015/12/27・かっぱ)


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