リレー随筆コーナー

『 同じ方向をむいて 』

   
白川まり子
女子高11
楽友三田会24期相当)


私は、小学校にボランティアで通っていた時期があって、少し心を病んで教室に入れなくなっちゃった子と保健室で一緒に過ごしたのですが、「向き合って何か話す」というのは難しいんですよね。

ましてや、児童の前にドーンと座って、

 「なんでも相談にのるから、さぁ話して!」 

なんて話しかけるのは問題外で、その子と同じ方向を向いて机に向かい、粘土をしたり、絵を描いたりを私自身も一緒に集中してやっていると、そのうちに、その子はポツリポツリと、

 「昨日・・お父さんとお母さんが・・喧嘩してね・・」

とかしゃべりだすんです。鼻歌も出て、心がどんどん柔らかくなったり。

これには『作業療法』という名前があるらしいのですが、そういう名前とか定義ではなく、身をもって「同じ方向を向くこと」 の大事さを、その期間に私は実感したのでした。

私は40代前半で癌になり、色々なものを体の中から、そして生活の中から失いました。 (・・・幸い10年以上経った今でも、こうして世にはばかっております!)

その影響で私自身が心を病み鬱病とパニック障害の診断を受けていましたが、そうやって小学校に出かけていく事によって私自身の心が救われていたのだと思います。

そして、その時に

 「60歳になっときに私は心が豊かでありたい!」

と痛切に思い、歌のレッスンを再開し、新たにバイオリンを習い始めました。

50過ぎの手習い!豊かになるどころか、ギーギー変な音を立てて心が曲がりそうですが、練習の時には

 『無心になれる』

という幸せを得て、さらに友達と「合奏をしよう!」とか「ライブに参加しよう」という会い方ができる、という素敵なおまけがついてきました。

もちろん皆と向き合ってランチを食べたりお酒を飲んだりする集まり方も大好きですが、 この、同じ方向を向いて演奏をしたり歌を歌ったりするという集まり方の、なんと楽しく充実している事か!初対面の人とでもすぐに音で共鳴できます。

楽友会時代の合唱もまさしく、みんなが同じ方向を向いてひとつの歌を作り上げ、さらにはちょっとずつ角度を作って半円に近い形になることで真ん中に声が集まり大きなパワーになる。

この素晴らしさをすでに体験していたのだなぁ!と、つくづく思っているのです。

インターネットを通じて、懐かしい人との再会が容易になった今、また、あのころの仲間や、さらにその輪を広げた人たちと同じ方向を向いて演奏や合唱をする機会を増やしていきたい、と心から願っております。


(2014/11/5 白川まり子)

バトンは伊藤俊介さんにつなぎました。


編集部注 大流行のFacebookに高校楽友会OBGがClosed Groupを登録し、70人近いメンバーが情報交換をしています。かっぱが最年長。そこに、「ロミオとジュリエットのテーマ(a time for us)の楽譜(ピアノ伴奏つき)を探してます」という書き込みです。前の日に”A Time For Us”の譜面が出ているSong Bookを見たばかり、コピーをとって送ってあげました。

その後、話は譜面作成ソフトのFINALEにまで発展し、メールのやり取りが始まりました。私たち楽友会の一桁世代の爺さんにとって、女子高の楽友会と聞くと可愛くて可愛くて、何でもしてあげたい気持ちになってしまいます。

ついこの間、9期の同期生が住む香川県小豆島に同期旅行をしたばかりです。まり子さんは香川県の住人でした。見ず知らずだった楽友からの親切が嬉しかったと美味しい讃岐うどんを送ってくれました。オザサ主幹が「Facebookかぁ、いい話だなぁ。原稿を書いてもらえ」となり、遠慮しながらも快く書いてくれました。まり子さんの画像はFacebookの中から切り出したものです。不思議な縁です。(かっぱ・2014/11/5)