随筆コーナー


日本酒早慶戦

 

 

 


太田 武(11期)



初っぱなからですが、皆さんは、早稲田大学公認の清酒「都の西北」をご存知ですか?それでは、特別純米酒「陸の王者」は?


早稲田大学公認酒「都の西北」     特別純米酒「陸の王者」 

まるで日本酒早慶戦ですね。「都の西北」の誕生が1991年、一方「陸の王者」は1992年生まれです。

清酒「都の西北」は早稲田OBの竹下元総理の実家の竹下本店(在島根県雲南市)が造り始めた酒で、現在も田部竹下本店で製造、販売(東京の野田酒店でも)されています。

一方の「陸の王者」は日光市今市にあります創業天保13年(1842年)の酒蔵渡邊佐平商店で醸造され、主に東京の酒販売会社「山二」から売り出されております。

わたしは9月上旬のある日、わたしが入っている、ある団体のワイン愛好会とゴルフ愛好会で付き合いの深い仲間と、この渡邊佐平商店の酒蔵を訪れ、同社の会長の渡邊護さんに案内を頂き、蔵の見学と製品の試飲をさせて頂きました。


(株)渡邊佐平商店の事務所兼酒蔵(建物は築120年とのこと)


酒蔵見学・・・案内役は渡邊会長で写っている樽はS37年(丁度会長さんが塾を卒業されて家業を継ぐために戻られた年)頃から昔の木の樽に代わってこの琺瑯引の樽が導入されたとか。

日光に行こうとしたのは実は日光カンツリークラブでのゴルフがお目当てだったのですが、仲間の一人にワインのエキスパート・エクセレンスと日本酒のSAKE DIPLOMAの資格を持つ人がいて、その人が折角日光に行くのならと、この酒蔵を見つけて酒蔵見学のアレンジをしてくれた事で実現したものでした。


渡邊会長を囲んで我々一行との記念写真。右端の仁が、ワインと日本酒に詳しい人・・・この人、SAKE DIPLOMAを取得されたのは75歳の時で当時日本最高齢での取得だったとか。

その彼から事前に渡邊佐平商店のHPを見て、予習をして置くようにとのメールが入ったので、同社のHPを見ていたら、製品紹介の項に特別純米酒「陸の王者」と言うのを見つけました。これは絶対に「慶応」が絡むであろうと色々調べて行く内に、清酒「陸の王者」誕生の裏話というのを見つけました。

それは1992年11月号の「三田評論」にありました。

この「陸の王者」が生まれたいきさつはこうである。創業天保十三年という老舗の醸造業渡邊佐平商店の若店主渡邊護君と、手広く酒類卸業を営む山二商店の若主人高山芳雄君、共に昭和三十七年経済学部卒業の塾員で、ゼミも同じ平井新ゼミであった。二年前の平井ゼミOB会の折、日本酒の販売戦略について語り合って、これからは漠然と広く販売するのではなく、ターゲットをしぼった販売方法をとるべきだと意見が一致、当時、「都の西北」のネーミングで売り出した日本酒があったことから「陸の王者」を思いついたという。商標登録の許可が今年6月におり、十月一日(数年前から清酒業界ではこの日を酒の日としている)を期して発売された。(中略)なお渡邊君の大叔父にあたる渡邊萬次郎さんは、義塾野球部草創期の明治三十年代前半に捕手として活躍された塾員で、義塾が陸の王者となる礎を築いた人ともいえ、所縁は深いものがある。

これを読んでからは、当日の酒蔵見学が非常に楽しみになり、日光へと向かいました。

その日は日曜日でしたが、夕方4時からなら社長(渡邊康浩さん・経済学部卒)が自身で案内しますという事で東武線下今市駅からタクシーで向かいました。着くと丁度社長が所用で出かける所との事で、今日は会長がご案内いたしますと言われ,会長さんにご挨拶。

早速、わたしが会長さんの経済学部の後輩である事を申し上げると同時に「陸の王者」の裏話を読んだ事を伝えました。会長さん、直ぐに顔がほころび、その後の蔵のツアーも懇切丁寧に、狭い蔵でしたが酒造りに纏わる諸々のお話を交えツアーは約1時間にも及びました。ツアー終了後はお目当ての試飲会。次々とグレードを上げながらの試飲は結構の量になり、車中(東武特急スペーシアXの先頭車両のコックピット・ラウンジ)で飲んだ持ち込みのシャンパンの効き目もあっていい気分で見学を終えました。見学の後は矢張お土産の話。わたしは勿論お目当ての「陸の王者」を、友人達も息子が慶応だという人は「陸の王者」を、他の人達も「陸の王者」や特別大吟醸酒などを買い求めました。

所で、この「陸の王者」ですが、「都の西北」が早稲田ショップで売られているのですが、慶応ショップでは売られておりません。慶応ショップで売られているのは「智徳」というお酒で、これは山形県の鶴岡にある慶応鶴岡キャンパス先端生命科学研究所が監修して、地元の酒蔵加藤嘉八郎酒造が造ったお酒だということです。

ついでのお話ですが、この「智徳」が2018年に発売された時に披露パーティーが銀座の或るレストランで開かれたそうです。そこへ招待されていたのが2018年ミス日本酒に選ばれた須藤亜紗実さんで、当時慶応医学部の5年生だったそうです。

お酒の世界でも慶応の関係者が色々活躍されている事を知りました。

最後に、渡邊会長自らの監修された同社のしおり「酒蔵見学 日本酒教室のしおり」に出ていました「名医が語る日本酒の効能」からの抜粋です。

1.お酒には4つの効用があります(国立病院機構久里浜医療センター名誉院長丸山勝也先生)
 お酒には、ストレスの解消、食欲増進、人間関係の円滑化、動脈効果予防、といった効用があります。ただし、それは適量飲酒の範囲であること。日本人の場合適量は日本酒換算一日3合くらいまで。週に一度の休肝日は作りましょう。

2.日本酒は糖尿病によくないは誤解(岡部クリニック院長岡部正先生)
 日本酒の糖分がよくないとか、日本酒はほかのお酒に比べてカロリーが高いとかいう人がいますが、それは大間違い。要はお酒の種類でなくて、その人の摂取する総カロリーが問題なのです。患者さんには、血糖値が良好、合併症がない、などの条件を満たせば1日1合までの敵正飲酒を認めています。

3.日本酒はボケを防いでくれます(赤坂クリニック名誉院長松木康夫先生)
 老いとは、末梢循環が悪くなることと定義されます。歳と共に血管が段々硬くなり詰まってくるわけですが、体内に日本酒が入ると,心臓の働きを活発にし、血管の循環がよくなります。人間の脳細胞は約130億個ありますが、20歳を過ぎるとどんどん減っていきます。ボケを防ぐには、脳細胞を少しでも減らさないようにすることが重要ですが、ここでも日本酒は脳の血管の血のめぐりを良くすることでプラスに働きます。

因みに、この三人の先生方も慶応医学部出身の先生です。

以上、お酒の早慶戦に始まる清酒「陸の王者」物語でした。了
(2024年9月15日記)


【ご参考】
渡邊佐平商店のHP:www.watanabesahei.co.jp
所在地:栃木県日光市今市450(道の駅「日光」日光街道ニコニコ本陣の日光街道を隔てた対面にあります)。

(追)
三田会合唱団では毎年12月に忘年会をやってますが、今年は「お酒の早慶戦」と称して「陸の王者」と「都の西北」の飲み比べをやって見ようかと企んでおります。果して軍配はどっちに?!

(2024/9/15)

    


編集部 太田 武君(11期)から原稿が届きました。「日本酒の早慶戦」があるとは知りませんでした。

一度、味わってみたいものです。

         「陸の王者」 ⇒ 「山二」でネット販売

(2024/9/15・かっぱ)

太田君から追加のメールです。

全国的に有名な「獺祭」と「浦霞」の対決というのです。
「獺祭」の酒蔵「旭酒造」の三代目社長の桜井一宏さんは2003年早稲田の社会科学部卒、一方「浦霞」の醸造元の「(株)佐浦」の社長は1985年慶応法卒で13代目の社長とのこと。この二つのお酒を持ち寄って「日本酒早慶戦」と銘打って飲み比べをしたそうです。

(2024/11/12)


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