リレー随筆コーナー

「讃岐うどん」初体験

 

峰岸 篤子(8期)



歌川広重「原(沼津と吉原の間にある宿)・朝之富士」

歩くのは得意だった。毎日の行動で時間さえ許せば歩いてゆくのが当たり前だった。大学の同期の仲間が東海道を歩いていると聞いて、仲間に入れていただいた。すでに、日本橋から始めて何ヶ月か経っており、私が歩き始めたのは原の宿からだった。

月に一度のペースで東海道が済んで、次は、多摩川の海から2キロ地点の天空橋から奥多摩湖までも制覇し、今は日光街道、日本橋の橋の上から今月今市まで到着した。

こう書くと、大変な健脚の様に思われるであろうが、実は昨年夏ごろより、自慢の足が言うことを聞かなくなってきた。私もとうとう古希の声が聞こえるあたりに来てしまったので、年をとるということはこういうことかと思い知っているところである。

この、思い知る少し前から楽友三田会歩こう会に参加してきた。またこちらの皆様が恐ろしく健脚ぞろいなので、私は、謙虚にトボトボとついて歩き、適当に失礼して途中から帰っている。

2月7日、山手線沿線を渋谷から上野方面までということで張り切って渋谷駅前に集合した。恵比寿、目黒、五反田、大崎を過ぎ品川に着くかというとき、「ここで昼食です」と声がかかった。「讃岐うどん」のお店である。ちゃんとお食事の場所まで調べてくださって・・・と感謝しつつお店に入った。

それぞれお盆を持って並んでいる。私も後につく。前の方は「カケ!」とか言っている。私としては<カケだけじゃぁ・・・>と辺りを見回した。

ちょうど傍のポスターに美味しそうなおうどんが載っていて「トロタマ」とあったので、「トロタマ!」と言ってみた。

カウンターの中のおばさんが、おどんぶりにうどん玉とおつゆを、隣のおじさんがとろろをお玉に一杯、温泉卵のような卵をパカっと割ってくれると、本当に美味しそうな「トロタマ」が出来上がった。

次に進むと、おびただしいてんぷらがずらっと並び、かなたにはまき寿司やお稲荷さんまで見える。私にはこの「トロタマ」で十分なので列からはずれ、後ろの台に乗っていた葱と天かすをたっぷり乗せた。ますます食欲が沸いてくる出来上がり。

さてと・・・場内を見渡したら、鉄チンが「篤ちゃん。ここ空いてますよ!」と声を掛けてくださったので、その席に掛けさせていただいた。

若い人たち(私より)のお盆には、天ぷらが何点か、おすしまで載っている。なるほど、かけのおうどんに天ぷらを乗せて食べるわけですね。でも、私のトロタマもとてもおいしい・・・と、ふと疑問がわいてきたので、訊いてみた。

「これってどうやって払うのかしらね?」

すると、四人の若い人たちのお箸が突然宙に止まった。

「えっ、払ってこなかったんですか?」

「・・・・」

列を外れてはいけなかったのだった。天ぷらがいらなくても並んでいれば最後にキャッシャーがあったというわけだった。

「もう、今日は払わなくていいですよ」

と、鉄チンは言ってくださるが、中学生の孫が居る身ではそうもいかない。おそるおそる空のおどんぶりを持って逆行してキャッシャーに行った。

「申し訳ございません。システムがわからなくて食べちゃったんですけれど・・・。トロタマなんですが・・・」

「370円です」

こともなげに言われて恐縮して支払った。絶対にそういう人はたくさんいるに違いない。それにしても安くて美味しいランチだった。

品川を過ぎ田町で帰ってきた。皆さんは上野まで歩かれたのだろう。

さてこの後、バトンはどなたにお渡ししようかな?

そうだ、「讃岐うどん」仲間の「テッチン中濱鐵志・9期」にお願いしよう。よろしく!(2010年6月26日)