リレー随筆コーナー

「〇の街」


石塚 伸(21期)


21期の石塚と申します。今年に大阪にて実施される予定だった21期同期会が中止になりましたが、仕方がないことです。来年実施できることを祈ります。

下記は随筆と言えるかどうかわかりませんが、最近のトピックな出来事を踏まえて書いてみました。

〇に入る文字に何が浮かびますか?

サラリーマンの街、学生の街、労働者の街、繊維の街、グルメの街・・・「の」をとれば、学生街、官庁街、繁華街、飲食街、住宅街、問屋街・・・

最近は〇に一文字しか入らないにもかかわらず、全国的に点在する「〇の街」が有名になりました。なぜ、歓楽街という文字を使用しなかったのか、「〇の街」の方が狭く象徴的である(分かりやすい)ことのようです。

街も町も人が多く集まって暮らす地域という点では同じ意味らしいですが、町は地方で牧歌的、街は都市部で躍動的と言うイメージがあるほか、明らかに異なるのは町が行政単位の名称になっているということです。また、日常的には町が街よりも大きな単位に使うことが多いことや、街が町よりも多くの人が暮らすにぎやかさを持った場所という意味で使用されます。「〇の町」と言うと行政単位としてのある地方の町や、都会でもある地場産業の地域をさして、観光や特産品などのPRを込めて使用されることが多いと感じます。

「〇の街」のイメージは大人が好む、コンクリートでできた幾何学的空間の中にある異次元の世界、猥雑さと妖艶・濃艶さを持った電飾煌めくアフター5の世界です。その名称そのもののボード板を某知事がマスコミに提示して「要請」したことは大変珍しいことでしたが、その名称を用いたことに賛否両論が出ています。そして「〇の街」というからには、当然に夜に人が集まる場所ですが、ライブハウスなどのように会場として多くの人が集まる場所、居酒屋やレストランなどは昼も営業することやサーブはするものの「接待」(歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなす/風営法より)はしないことから、ここでのその代表がクラブ、バーなどの接待を伴う飲食店であることは論を待たないところです。

人がここにいう「〇の街」に集まる理由は、そこに非日常的生活という魅力・魔力・優越感・ある種の期待感や、自分が主人公の異次元の世界を擬似体験できるからです。しかし、日常生活ではないことでその対価は日常的支出を超えることを覚悟しなければなりません。従って、収入が少ない人はまれにしか体験できず、収入に多少のゆとりがある人でも収入や体験の質の節度や変化を自覚せず、更には優越感・期待感が自己中心にはまり限度を超えると日常生活に支障をきたします。ここに、一時の歓楽生活への主体的参加の意思を持ちつつも、現在の自己の境遇と、最近では外部環境の変化への適応に対する身の丈をわきまえた行動の必要性という壁が存在します。

下記の記述は、一地方の一般的「大衆〇〇〇」のそれも一面であり、事実以外は私見を交えたものです。

1.提供される酒は通常小売価格の4〜5倍
店が客に提供する酒の価格がそうであるならば、店はいくら儲かるでしょうか。店は販売店から通常小売価格の概ね8掛けで仕入れるため、ボトル代が2万円なら店は約16,000円(20,000−20,000÷4.5×0.8)の利益です。居酒屋やレストランなどでは通常価格の1.2〜2倍程度ですから図分違います。ここに、飲食店とはいうものの客は飲食の目的で来店しないことは明らかです。これだけを見るとこんなに儲かるのかと感じますが、そもそもボトルキープは訪問の3〜5回に1回程度ですし、キープが入店の条件ではなく無料の安い焼酎・ウイスキーで帰ってしまう客や、時間当たり客単価(セット料金=固定料金)が同類の「高級〇〇〇」(ここではキープが条件)に比べて一桁低いので全体とするとボロ儲けとはいきません。

2.接待する女性は雇用か
店に勤務する形態は形式的には正社員とアルバイトということになっています。正社員はフロアで働くボーイさん(たまに女性)で普通に給与が支払われます。接待する女性は半数以上が副業勤務で、フル出勤でも正社員と言うことはほぼ皆無です。彼女たちは手取り金額が少しでも多い方が良いということと、長期間勤務する境遇・意思がないため社会保険・労働保険に加入する正社員は望みませんし、店(会社)も保険料の会社負担がない方が助かります。

ここに、生保レディと同じような「報酬」として収入を得ることになります。すなわち、実態は勤務(労働)ですが受け取る対価は自営業者と同じ体系が多いことです。しかし、フルタイムで長期勤務している場合は給与か否かについては議論があるでしょう。

そうすると、報酬と受け取るからには各自が確定申告しているかどうか、ほぼまずしていません。では、脱税か、受け取るときに給与と同様に源泉税所得税が差し引かれるので、もしかしたら必要経費を集めて申告するならば還付があるかもしれませんが、地方では高級取りはまずいないので還付があっても少々、自分ではできないので手数料を払ってまでするメリットはなく、ならば面倒なのでやらないという結論に納得です。

しかし、昼間に正社員として働いて副業としている場合や、掛け持ちをしている場合は多少ややこしくなりますが、都会の「高級〇〇〇」のホステスさんは店舗の一部を借りての真の自営業者として、確定申告で還付金を得ている例が少なくないようです。また、店側としては支払う相手が形式的に個人事業主だから消費税の仕入税額控除が可能か否かについて、受け取る側が確定申告をしていなければそもそも無理です。

今日のコロナ禍で画期的(私にはそう見えました)な政策がでました。「〇の店」を経営する事業者もそこで働くホステスさんも、条件を満たしていれば国から持続化給付金(法人=200万円、個人=100万円)がもらえるということです。当然に、ここでは確定申告をしている個人事業主としてのホステスさんで、その他の必要条件を満たしていることが必要です。しかし、これくらいでは焼け石に水であるという声が出ていますが、他の飲食店もあえいでいる中で、「〇の店」も緊急事態の中で国が社会的認知をしたと思いました。

3.地元には一人では行かない管理者・経営者
零細・中小企業の経営者(社長に限らず管理層以上)のおそらく半数以上は、自主的か付き合いか交際接待かで年に複数回入店しているか又は過去にしてきたと思われます。その主目的は上述したことの自己体験か饗応ですが生活・仕事の潤滑油として利用することです。

しかし、地方は狭い世界なのでこれらの店に入ると誰かに出会うことが珍しくはありません。そこに居ても何ら恥じることはありませんが、それが「〇の店」ゆえに自分一人でいた時にはややバツが悪く感じるのが一般的です。それがすぐに同業者や所属する団体などの知人に知れるからです。従って、多くの経営者はだれか複数人を連れ立っていくことになります。それを回避するために都会の店に新幹線を使ってまで行く経営者も、多いわけではありませんが珍しいことではありません(わざわざ連れ立っていく例もあります)。

複数で行く大きなほかの理由の一つに、仕事の延長として「交際費」で経費処理できるというメリットがあります。当然に一人での入店では経費処理ができないのでひとつの方法ですが、それも社会通念上から見て多すぎる回数の経費処理は健全な価値観の欠如となります。

4.情報交換の場としても存在する〇の店
接待する女性の年齢がやや高い店では管理者・経営者が進んで一人でも通う場合があります。そこには必ず知り合いの同業者又はその周辺関係者がいるからです。このような例は特に地元密着型業種の代表ともいえる不動産・土木・建設業界(地元経営者層のみならず、地元の支店・営業所関係者)が集まる店に見られます。

そこでは「あの件・・あの社長・・」などと仕事に関する話や他社・業界情報或いは地元の情勢に関する話が持ち上がります。公式には話しづらいことでもそこではしやすくなります。接待する女性も経験を踏んでいるため守秘義務をわきまえて客も安心できます。実利と本音をやや妖艶・濃艶な場所で得られるある意味貴重な場所です。

5.コロナ禍の「〇の街」
緊急事態宣言解除後にクラスター発生の根源であるとして「〇の街」の存在とその言葉は一躍脚光を浴びることになりました。それに追い打ちをかけるように、7月になって風営法を根拠にした警察による「〇の街」への立ち入り調査を政府自らが打ち出し、早速東京都などでは都と警視庁の合同調査が一部に実施されたとの報道がありました。マスコミでは、そもそも風営法は感染症を前提に規定してはいないのだから、法の拡大解釈による「越権行為」であるとの論調が多いようです。なぜ警察なのか、感染症対策なのだから保健所や所管する地方自治体で十分ではないかという主張のほかに、警察関係者からも確かに警察が入るだけで圧力になってしまうという指摘にもうなずけます。

今後は店・業界の自助努力の促進と権力側との駆け引きや世論の動向が気になるところです。ウィズコロナ、アフターコロナを見据えた社会、経済活動の変化の中にあって、「〇の街」はどう変化するのか目が離せません。

尚、次の走者は検討中で承諾を得次第、連絡いたします。

(2020/9/4)

次の走者の了解を得ました。21期の「望月敦子」さんです。(2020/9/7)

    


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