リレー随筆コーナー

「列車に歌声」の反響

 

まえがき
大学楽友会員にとって、新潟への演奏旅行は年末の定期演奏会と人気を二分する冬恒例の行事となっています。

今年(2008年)も2月21日から24日(日)まで、有志約35名が南魚沼市への旅に出ました。商店街でのチラシ配りや、塾員が経営する「青木酒造」という格式のある「酒蔵」−今年は、その古民家のような趣のある店先−でのミニコンサートやら、けっこう忙しいスケジュールですが、そこは若さで乗り切り、いよいよメイン行事の、南魚沼公民館での演奏会に臨みました。

普通ならここで演奏会評とか面白おかしい旅行記をご紹介するところですが、今回は違います。話はその後の帰路にジャンプします。以下本文に続きますが、その帰路で起きたある事件が、@4月13日付朝日新聞(朝刊)の「列車の歌声」という記事で美談として大きく報じられ、次いでA7月24日にはテレビ朝日の「いいはなシーサー」という番組で放映され、大きな反響を呼びました。

(その詳細は、右の「記事」をクリックし、拡大してお読みください。この切り抜きは3期の篠原初子さんが自らスキャンして送ってくださったものです)。 かつて「慶應義塾楽友会」の名が、これほど大きく、ハッキリと全国紙に載ったり、テレビの画面に映しだされたりしたことはありません。OB/OGは新聞の切り抜きやDVDを回覧して、大喜びでした。

ちょうどその頃このホームページもオープンし、筑紫さん(1期)から「リレー随筆」のバトンの渡し先を任されたので、「時の人」である山野井さんに執筆をお願いしました。その時最高学年だった筆者も、今は都心の政府系金融機関の新入社員です。(以上・編集部)


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ほんぶん

山野井 友紀(53期)

「まだ復旧の見込みはありません」

車内から聞こえるアナウンス。石打駅ホームはとにかく寒い・・・。本来ならば、酒蔵での演奏後、翌日の資格試験に向け、私は一足先に帰る予定だった。でも「公民館行きましょうよ!試験はまた受けられるけど、大学最後の公民館コンサートは今回っきりだよ」と皆にとめられ、<終わってすぐに帰れば東京に22時頃に着くだろう>と思って残ることにした。が、なんと塩沢から越後湯沢に出る前に上越線が止まってしまったのだ。石打駅のホームで同期に電話した。

人気がない駅。開いている商店もなく、バスもタクシーも来る気配がない。遠くに光りがポツリと見える程度。寒く心細い思いをしていると、宿の方が車で迎えにきてくださった。新潟・塩沢の方々の温かさに触れた。

<さてどういう顔をして再び団員の前に戻ろうか>。心配無用。宿に着き、部屋の扉を開けると、早くも私が戻るという情報をキャッチした仲間たちが「おかえりー!」と飛びついて来た。仲間が笑顔で迎えてくれ、多くの団員のいる部屋は、物理的な温度以上に暖かく感じた。

翌日、<今日こそは帰れるだろう>と思っていた矢先、今度は湯沢を出てすぐに電車が止まってしまった・・・・・・前日にも帰れず、試験も諦め、今日も電車が止まる。ついていない。

こんな状況からドラマは始まった。その後は皆様もご存知の通り、「列車に歌声“春風吹いた”」となった訳である。

貴重な体験、何か形にできないか、という思いから新聞に投稿した。即日、社会部の記者の方から連絡が来て取材を受け、思ったより立派な記事となった。その翌日、いつも通りに出社すると、見知らぬおばさまから反響メールが。気づけば社内ネットに記事が載っているではないか。全社員に回る新人紹介冊子にまで、「入社2週目にして新聞に載った新人」と書かれている。その後、都立高校からも感想文が送られてきた。記事を倫理の授業で使ったという。反響の大きさには驚くばかりだった。

5月。六連の帰り道だった。「ゆきんこさん、今度はテレビ局です!」「!????」ということで、次は「いいはなシーサー“笑顔の雪国列車”」となった。団員の寝顔大公開には冷や汗をかいたが、研ナオコさんにも「いい話だね」と言われ、良い思い出になった(左は、その時とった携帯写真です)。

「うちの部に入社2週目にして新聞に載り、3ヶ月目にしてテレビに出た新人がいる」という言葉が今も社内で絶えない。

部署内を今も録画DVDが回っている。とかく、雰囲気に馴染めず、部署に居づらいのが新人だが、おかげさまで多くの人から声をかけていただき、楽しい毎日を送っている。

当初、「電車の中で歌うなんてモラルがない」など賛否両論だったこの事件。良きにしろ悪きにしろ、人生の中で忘れられない1コマとなった。歌の楽しさを教えてくれた先輩・後輩に感謝。しばらく歌とは離れた生活を送っているが、また歌えたらと思う。

バトンは、同期の梶田桃代さんが受けとってくれました。(08年8月30日)