演説館(FORUM)

楽友会は創立何周年?

 

小笹 和彦(4期)


2001年3月に楽友会が「創立50周年記念演奏会」を開催したことを考えれば、昨2008年は創立57年ということになるでしょう。ところが慶應義塾創立150周年の祝典に際し、母校の沿革を詳しく読み直したところ、その計算が間違っていたことに気づきました。正解は60年です。

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・・・「150年」前(1858年/安政5年)。築地・鉄砲洲に中津藩の私塾として「蘭学塾」が開かれました。その初代塾長に福澤諭吉先生が選ばれ、先生は藩命によって大阪から赴任されました。ただそれだけのことです。先生が自らの意思で家塾の域を脱し、同志を集めて芝・新銭座に校舎を建て、慶應義塾と命名し、近代私学を発足させたのはその10年後のことです。従って、今年は楽友会流にいえば、慶應義塾創立140周年ということになってしまいます。

では「150年」は間違いなのか、あるいは慶應義塾だけの特例なのか?そこで、他の学校や企業等の実情を調べてみると、ほぼ例外なく―その創業者・名称・所在地あるいは業容のいかんに関わらず―今ある組織の母体の創業時点を創立年としていることが分かりました。海外の組織とて同様です。各国の「建国記念日」も、できるだけ古い故事を援用し、神話の時代にまでさかのぼって制定するのが通例のようです。

従って慶應義塾が「創立150年」を標榜するのは間違いではなく、むしろそれが社会的慣例に則った常識と分かりました。そこで楽友会の歴史も音楽愛好会創設の時点(1948年6月)にさかのぼり、2008年は創立60周年と解するのが妥当、と確信するに至ったのです。

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57年と60年。たった3年の差ではないか。何を今さらそんなことに拘るのか、という思いがないわけではありません。しかし、この3年を楽友会史の圏外に置いたままにしておくと、何か重大な忘れものをしているような気がして落ち着かないのです。重大な忘れ物?それは何か。端的にいえば今も活躍している「高校楽友会」と、その母体である「音楽愛好会」の存在です。

その存在を否定する人はいないし、林光・小林亜星・若杉弘・舘野泉といった著名な楽人を楽友会の先輩、あるいは仲間として称えることに異議を唱える人はいないでしょう。しかし、その人たちが活躍していた舞台は、その失われた3年、若しくは音楽愛好会にあったのです。

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申すまでもなく、慶應義塾はわが国で最も先駆的な一貫教育校であります。楽友会もその恩恵に浴して礎を築きました。楽友会の母体となった塾高音楽愛好会は普通部出身者たちが集まって結成されました。女子校音楽愛好会は中等部出身者がその中心でした。そして楽友会は、内部進学者から徐々に外部入学者へと輪を広げ、しかも高校と大学が一体となった7年制の共同体として発展したのです。

ところが今は、これを口にすることさえ憚られます。古人は「温故知新(論語)」あるいは「初心忘るべからず(世阿弥)」といい、いたずらに時流を追って根なし草と化す、後継者の痛弊を強く戒めています。しかし残念ながら私たちもその弊に陥り、自分たちの原点から遠く離れてしまったかのようです。

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それとこれとは別ではないか。音楽愛好会創設の年度を楽友会史の原点としたところで、それだけで高校との疎遠な関係が復活するはずはない。塾には「独立自尊」ということばもある。高校と大学がそれぞれ自主的に会を運営し、しかも、それぞれが独立した団体としてしっかり活動を続けている。それだけで十分ではないか。人と人、あるいは組織と組織の関係が時とともに疎遠になるのは自然の流れだ。今のままでもいいではないか・・・と考える向きもあるでしょう。

そうお考えの方に質問します。「あなたは高校楽友会が無くなるか、あるいは他の団体に乗っ取られ、改名しても、何とも思いませんか?」。

現実にそういう動きもあったようです。70年代後半から「高校楽友会」の卒業生が「大学楽友会」に進むことは稀となり、大学や楽友三田会と断絶してしまいました。ワグネルとは太い絆ができたようですが、楽友会には岡田先生を介する他、今は何の接点もありません。「塾高楽友会」がその名を変えるのは時間の問題かもしれません。「女子高楽友会」がつぶれそうになったという話も洩れ聞きました。よしんばそれ等が杞憂に過ぎないとしても、現実に、楽友三田会に多くのOBGがいるにもかかわらず、その出身母体の動静に無関心でいること、あるいは大学楽友会が最も身近な人材供給源を放置したままにしておく現状は、理解に苦しみます。

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このままでいいとは思えません。そこで具体的に次のような提案をします。

1 私たちは何よりも音楽によって結ばれた仲間です。音楽、なかんずく合唱によって、縦軸と横軸を結ぶ交流をもっと活発にしましょう。

一案として、楽友会が発会式を行った6月29日頃に毎年「オール楽友会ファミリー・コンサート(仮称)」を開催するのはいかがでしょうか。

2 もちろんこれには、高校楽友会も加わっていただきます。

そして、そのためにも、楽友会創立年数は、高校に「音楽愛好会」ができた初年度にさかのぼり、1948年を起点として計算することにしましょう。次の節目は2018年の創立70周年ということになります。
ただし「楽友会XX期」という年度別呼称の「XX」数を変える必要は当面ないでしょう。それ等は創業時期と別次元の問題、と思うからです。

3 いつからそのコンサートを始めるか?

再来年(2011年)は「楽友会第60回定期演奏会」開催の年にあたります。これを記念して、第1回の「ファミリー・コンサート(仮称)」が開催できれば最高です。より詳細なスケジュール・内容・予算等は、楽友三田会にプロジェクト・チームを立上げ、総意を結集することを希望します。

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以上、いずれも代表幹事会・総会を経て議決されるべきことですが、それと並行して、ぜひ全楽友会員でこの問題を考えていきたいと思います。あえてこの「フォーラム」最初の議題として借問する次第です。(2009年7月7日)


11年後の編集後記 
多くの楽友は2001年にサントリーホールでの楽友会創立50周年演奏会を以って、2021年が70周年記念だと思っている。

実は50周年記念行事をと準備委員会が出来たのが1994年6月だったと、伴 博資君が50周年のプログラムの最後に書いている。当初は1998年に開催すべく4年の準備期間をとったのだが、当時のことを知る楽友が私に教えてくれたのは、「遅れに遅れて2001年になった」のだと。(2019/2/12・かっぱ)

現在、70周年演奏会の準備委員会が発足したようだが、初めから間違った年に記念事業をやるのは止めた方がよい。2023年に75周年演奏会を行って、皆さんの頭の中を切り替えてもらいたい。(2021/7/5・かっぱ)