リレー随筆コーナー

日本語教師のボランティア

井尾 雄二14)


楽友会との接点を考えると、今を遡ること約半世紀にもなってしまう。就職後の20数年は、音楽とは全く無関係な人生だった。同期の日高氏が「楽友三田会合唱団の定期演奏会で指揮をするので、遊びに来ないか」というので一度練習に参加したのが、再開のきっかけになった。それから途中の4年間を除きずっとお世話になっている。今回はこの中断の4年間の生活についてのお話をしたいと思う。

定年退職後の人生を考えていたとき、会社の先輩から「日本語教師になって外国で日本語を教えているが、生徒は皆きらきらした目で一生懸命勉強している」。「とてもやりがいのある仕事だ」との言葉と授業風景の写真を見せられた。そのとき自分の中のスイッチが入った気がした。それから勤務時間後の時間を使って420時間の講習を受講、約2年半の教壇経験を経て、タイの首都バンコクでの日本語教師の生活が始まった。いつも何気なく使っている日本語も突き詰めて考えるとなかなか難しいものだと言うことに気が付かされる。


井尾先生と生徒たち

生徒の一人が「先生、“使用”と“利用”はどのような違いがあるのですか?」と質問してきた。

その場では答えられなかったので、苦し紛れに「みなさんの日本語レベルで分かるように答を考えてくる」と返答した。次の日になって“使用”は単に使うことで、“利用”は使うことによって使った人にとってのメリット(利益)がある時に使う、と答えた。これで本当に正しかったのかは分からないが、事ほど左様に日本語は奥深く難かしい事を実感した。

しかし授業は毎回とても楽しく充実した日々を送ることができたのは、今でも日本語教師を続けていることからも判断できるし満足している。

帰国後も品川区内のNPO法人で働いている。この法人は品川区の委託事業として、日本語が全く分からないで来日した小中学校の外国人を授業中取り出して、日本の学校の授業についてゆけるところまで教えた後、元の学校に戻す事を行っているコースと、外国の中学校を卒業したが日本の高等学校の入学試験は難しい人のための高校入試支援コース、及び成人日本語コースと多様なコースを持っている。

来年度からは品川区民を対象とした外国語(外国人)アレルギーの解消プログラムを、品川区の委託事業としてやっていこうと思っている。このプログラムは2020年の東京オリンピック、東京パラリンピックまで継続して行ってゆきたいと考えている。

毎日が充実しているが、このようなボランティア活動を通じてお世話になった方々やそれ以外の方々と世の中に僅かな貢献が出来たらうれしいと思っている。バトンは8期の田中久夫さんにお願いします。(2014/8/7)