リレー随筆コーナー

楽友会の持つ不思議な力


山下夕香里(21期)


高校に入学して、楽友会に入部しました。きっかけは覚えていませんが、67歳になっても多くの楽友会の友人とつながっています。今は歌からは離れていますが、人生の様々な場面で楽友会の持つ不思議な力の影響を受けてきました。

私は大学卒業後、発音や食べることに不自由を感じている方々に対してリハビリを行う言語聴覚士という仕事を40年以上続けています。理学療法士や作業療法士ほどメジャーではありませんが、日本では約34000人が病院や施設で働いています。私は発音で悩む子どもたちの指導を中心に行ってきました。発音を治すには決められた通りに舌を動かす必要があります。「正しく発音をするには舌をこうして動かすのよ!」とことばで説明しても子どもたちは理解できません。一番効果がある方法は、歌を歌う時のようにリズムや抑揚をつけて教えることです。ピッチやトーンを変えながら子どもの気持ちを引きつけつつ、何度も繰り返します。歌う時のように音に合わせて舌の動きをまねっこすると発音も上手になります。この方法は後輩たちから「山下マジック」と絶賛されました。楽友会で培った音に対する感性が仕事に生かされたのではないかと思います。楽友会の不思議な力に感謝です。

長く仕事を続けていると、大勢の参加者の前で「発音を治すコツ」について話す機会が増えてきました。壇上に立つとやはり緊張しますが、定期演奏会の舞台と同じだなと考えると、それほど苦でなくなります。講演での第一声は演奏会で最初に歌い出す時の緊張感と似ているなと思います。話し終えて拍手の中一礼する時も、定期演奏会を無事終えた安堵感に似た感じを受けます。楽友会の不思議な力を感じます。

研修会で話をするだけでは、伝えたい内容がその場で消えてしまうことに最近気づきました。「そうだ、活字にして残そう」と考えて、1年かけて原稿を書き、昨年10月に上梓することができました。内容は日本人が多く悩む発音障害の側音化構音の指導法としました。この発音障害は、年齢が高くなっても自然治癒せず、社会人になって相手に自分の言いたいことが伝わらないと悩み、コミュニケーション障害を引き起こしてしまうこともあり厄介です。最近、この発音障害の原因が、日常生活で舌を使ってこなかったことではないかと言われるようになりました。

側音化構音になった子どもたちの多くが、「奥歯でしっかり噛まない、丸呑みをしている、給食を早く食べたいので牛乳で流し込むことが多い」というエピソードを多く持っていることに気づきました。例えば、側音化構音がみられたお子さんの保護者に「お子さんにガムを噛ませたことありますか」と尋ねると「飲み込んで喉に詰まらせるのが怖いので与えたことがない」という答えが返ってきます。昔は何でも口に入れたり、なめたりしてたくましく育っていましたが、今は親の過保護というか、少し心配し過ぎかなと思います。さらに「生野菜は嫌い、堅いお肉は嫌がって食べない」など偏食が多いお子さんも多くみられます。通常の子どもは、口に入った食べ物を舌のセンサーで感知して食材に適した強さで噛み砕きます。しかし、側音化構音のお子さんはいろいろな種類の食材を食べるという経験が極端に少なく、その結果日常生活で舌を動かさなくなったのではないかと考えられます。最近の子どもたちは、噛まないでたべられる柔らかい食品(ハンバーガーやフライドポテトなど)を好んでいることも舌の力が低下した原因と考えられています。このコラムをお読みいただいている読者の皆様、お孫さんの食べる機能の発育、「奥歯でしっかり噛むこと」ができているかちょっとだけ気にかけていただければと思います。

高校から大学まで7年間を過ごした楽友会の友人は私の宝物です。まだまだ日々の生活に忙しく、たまにしか会えません。しかし、集まると一瞬で学生時代に戻れます。21期は、2年に1回辻岡幹事長の鶴の一声で同期会を開催する掟があります。今回は、コロナ渦で中止となりましたが、永遠に続く・・・・とのことです。楽友会の仲間で集まると、楽しくて心安らぐ懐かしい時間に戻れます。これからの長い人生の中で、今度はどんな楽友会の不思議な力に出会えるのか楽しみです。


21期生

手許にこの写真がありました。若い頃の懐かしい写真です。2列目のアイスを持っているのが私で、1列目の真ん中の阿部さんにバトンを渡します。後、よろしくね!

(2021/4/8)

    


編集部 アイスクリームの山下夕香里さんからリレー原稿が届きました。アイスクリームが溶けないうちにね。

21期は次々とバトンが回っています。次も同期の阿部君です。

(2021/4/8・かっぱ)


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