リレー随筆コーナー

三田の猪熊いのくまさん


渡部美代子(29期)


皆様は三田学生食堂に壁画があることを憶えていらっしゃいますか?そして、その壁画の作者が猪熊弦一郎さんであるということをご存じでしたか?

多分、猪熊さんと言われて、「誰それ?」と思った方でも、「三越の包装紙をデザインした人ですよ」と言えば、あの特徴的なマゼンタの不思議な模様を思い出すことができる筈です。

2019年の山食での現役との親睦会に、私はひそかな目的を持ってでかけました。それは三田の学生食堂の壁画を見ることでした。

猪熊弦一郎画伯の筆による三田の学生食堂の壁画は『デモクラシー』という題名です。学生が歌を歌ったり、楽器を奏でたり、青春を謳歌する姿が描かれています。なかには不思議な動物の姿もみられます。

ですが、この壁画ははじめからこの場所にあった訳ではありません。もともとは1949年に建築家谷口吉郎によって設計された大学学生ホールの内部の壁画として描かれたものでした。建物取り壊しに伴い、現在の場所に幸いにも移されたのです。

この壁画より2年後に描かれた作品に、上野駅改札上にあって、今もみることができる『自由』という壁画があります。東北からの玄関口であった上野駅を楽しく彩りたいと制作されたものです。

猪熊さんは、「絵画は独占するものでなくより多くの人々を喜ばせ、みちびくもの、多くの人々のためになるべきものだ」と壁画を多数手がけました。

私はバブル時代に、のほほんとした学生生活を送り、学生時代には食堂に出入りしていたことはあっても壁画には全く関心がなく過ごしていました。最近になって懐かしい三田キャンパスにも猪熊さんの壁画があることを知り、学生の為の空間に彩りを贈ってくれた先人の思いに胸をうたれました。

猪熊さんはMIMOCA(丸亀猪熊弦一郎美術館)の開館スピーチで、

「世の中に美がわかる人を増やしたい。そうすることで世の中が平和になると思う。美がわかる人は人の気持ちがわかる。人の気持ちがわかる人が増えれば、戦争がなくなる」

と語られたそうです。

私も機会を作ってぜひ丸亀市猪熊弦一郎美術館を訪問したい、これが今年の年初の希望です。

(2021/1/12)

    


編集部 年の始めから驚かされるものが送られてきます。昨日は長野の戸隠神社からのプレゼントでした。今日は29期の渡部さんからの自主投稿です。

バトンを受け取っても、なかなか書いてもらえないことで、「リレー随筆」のリレーが凡そリレーとは思えないこの頃、編集部をハッとさせる美代子さんです。嬉しい限りです。

バトンの渡し先を連絡して来ない海野君、佐田さん、バトンの渡し先を連絡してください。そして、至急リレーを生き返らせてください。それから、執筆中の坂巻さん、山下さん、千葉君・・頑張って書いてください。

(2021/1/12・かっぱ)


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