リレー随筆コーナー

「歌う」ことを考える

 


坂本裕則(22期)


「よし! それならジャンケンだ?」
「最初は、グー!」
はい、ストップ。
そのグー、力が入っていませんか。
そのままで、中指を動かせますか。薬指は、小指はどうですか。
頭で動かそうとしても、あら不思議、動きません。
じゃあ、そのままで、力を指が動くまでゆっくり緩めて下さい。
そう、指が動きますよね。
でも、手の形は、グーのまま。ジャンケンのグーです。

「歌う」つまり声を出す時に、無意識に力を入れているこの「グー!」を自分の体に置きかえてみました。

大学を卒業後、地元栃木県小山市の合唱団で歌って来ました。幸いなことに地方でありながら、オケ付きでモツレクやフォーレク、ヴェルレク等、沢山の曲目を歌うことが出来ました。
今は、地元小山に加え、車で片道1時間ほどかかる宇都宮の合唱団(グローリア アンサンブル&クアイアー:今秋10/4メンデルスゾーンのエリアを演奏)へ、私のアモーレ(安田倫子先輩)と共に、週に1度練習に通っています。

さて、今から5年前に、60の手習いで、地元小山で自分より30才近く若い、プロのバリトン歌手の先生(イタリア:パルマへ5年間留学)の教室で、本格的に「ボイトレ」(毎週;毎回60分)を始めました。
残念ながら私は一年半ほど前に心臓弁膜症の手術を受けましたので、レッスンを8カ月程休み、そこから練習を再開。現在は2週に1度のペースで通っています。
心臓は開胸手術でしたので、退院時に担当医から「当分の間、重いものは持たないこと」との注意を受けました。持つ持たない以前に胸骨がくっ付く間(約2カ月半)は、胸が痛くて、車の運転も、カーブの時は両手を胸元でクロスするなどもってのほか。手元でちょこチョコ動かす、送りハンドルでした。

ところが「歌う」ことを再開すると、手術前より声が飛んで行きます。これには驚きました。
力が入らないから声がでる。いや力を入れなければ声がでる、という発想の瞬間でした。
それからというもの、胸からスタートして、声帯、舌、舌根、軟口蓋、ブレスのためのお腹周り、考えられる所は、すべて力を抜くことをイメージしています。
たとえば、声帯は音程が高くなると喉が閉まって上に上がるので、とにかく力を抜いて、最低の力で声帯を、喉の芯(野球のバットにおける芯のイメージ)と思われるところへ、1ミリ刻みで動かしてみる。すると、声が広がり今までにない響きになります。
ブレスも力任せではなく、最低限の力の入れ方でひたすら息を流すことに集中すると、これが本来自分の持っている声だと、実感します。
5つの母音を一つひとつ丁寧確認しながら歌う『ヴォカリッツォ』、また中音域から高音域へ移行する『パッサッジョ』も、練習する度に自分のものになっていると実感しています。
今は、『ヴォミターレ』(吐く)の感覚をつかむのがテーマ。

学生の時より、間違いなく進化しています。
力が入ってしまう「無意識」といかに戦うか。
私の、「歌う」ことを考えるは、まだまだ続いています。

『リレー随想』は、私の1期上で、21期 高橋 寛様(香川県高松市出身)にお願いしました。
現役時代には大変お世話になり、未だに温かい言葉を戴いております。

    


編集部 2月が終わろうとする29日、坂本裕則君からの原稿が届きました。1月31日に野村豊君、次に路川昌子さん、そして坂本君へとつながり、1か月の間に3稿が寄せられました。

特筆すべきバトンリレーの速さです。(2020/2/29・かっぱ)


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