リレー随筆コーナー

よっさんのエッセー

新シリーズ「心に残った一曲」

〜 日本の抒情歌より 〜


土井承夫24期



か あ さ ん の う た

(作詞・作曲:窪田 聡)

かあさんが  夜なべをして  手袋あんでくれた
木枯らし吹いちゃ  冷たかろうて  せっせとあんだだよ
ふるさとの便りはとどく  いろりのにおいがした

かあさんは  麻糸(あさいと)つむぐ   一日つむぐ 
おとうは土間で  わら打ち仕事  お前もがんばれよ
ふるさとの冬はさみしい  せめてラジオ聴かせたい

かあさんの  あかぎれ痛い  生みそをすりこむ
根雪もとけりゃ  もうすぐ春だで  畑が待ってるよ
小川のせせらぎが聴こえる  なつかしさがしみとおる

<歌の背景と感想>
歌詞の1番は、2行目にお母さんがくれた手紙の文面をそのまま入れた事で 歌を温かくしている。この歌は作者の窪田聡の実体験をもとに書かれた。

窪田は昭和10年に東京の墨田区に5人兄弟の一人として生まれたが,決して裕福な家庭ではなかった。この歌からするととても母親思いの子供の様に見えるが、実はいつも母親と衝突して手を焼かす息子であった。大学に受かったものの、親が用意していた入学金や授業料を持って家出してしまった。

そして、新聞配達の住み込み部屋にいた所を兄に見つけられて住所がわかり、母がダンボール箱の小包を郵送するようになる。その中には、チョコ、衣類、「身体をこわすな」と書いた手紙そしてビタミン剤などが入っていた。そこで窪田は母の温かさとそれを黙認する父の気持ちも有難く嬉しく思った。

私も学生時代に東京で4畳半一間(素泊まり月1万円)に下宿したり会社に入ってからもあちこちに異動したが、飛ぶ鳥を落とす勢いの時も打ち拉(ひし)がれて落胆の底にある時も病気の時も一貫して母は荷物を送ってきてくれた。どんな時も常に味方になって支えてくれたのが母であった。親子には利害関係はない。母のこういった気持ちの事を「無償の愛」と呼ぶのであろうか。

歌詞の2番はその後、昭和19年の敗戦が色濃くなってきた時期に窪田は家族で両親の故郷の長野県の山間にある信州新町の叔父の家に疎開する事になる。

ここで冬の信州の雪深い山中にある藁ぶき屋根の家のなかで見た光景が  「母さんは麻糸(あさいと)つむぐ、おとうは土間でわら打ち仕事」であった。

その後、日本は高度経済成長期に入り地方から多くの若者が集団就職で都会に移り住んだがなかなか故郷に帰れないどんなに沢山の人たちがこの「かあさんのうた」の歌詞に自分の故郷の情景を重ね合わせたかわからない。

歌詞の3番に「もうすぐ春だで」という長野市信州新町の方言「・・だで」がでてくる。長野市内のアマチュア合唱団にはこの歌をテーマソングにしている団も多いと聞く。その女性団員の話にも「母が信州新町の出身でまさにこの方言を話していた。母の声を聴いているようで・・」と声を詰まらせる。

1年の終わりに「かあさんのうた」について考えました。3年前にインドの修道女でノーベル平和賞を受賞したマザーテレサのお話をレポートしました。

母は強い、そして優しい。もうすぐクリスマスです。イエスキリストを産んだのもあの聖母アヴェ・マリアです。今回の館長報告は女性の話題一色でした。読んで頂きありがとうございました。

    


編集部 また、ヨッさんの館長レポートが届きました。エッセー部分をこちらに掲載しました。

もう、令和元年も終わりです。公民館建て替えと県民第九演奏会と多忙の土井君ですが、せっせと書いて送ってくれます。(2019/12/8・かっぱ)


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