リレー随筆コーナー

よっさんのエッセー

父の教職人生回顧文


土井承夫(24期)

倉吉市福庭自治公民館館長


最近、書類を整理していたら母と同じ5年前の同じ年に亡くなった私の父、小中学校の音楽の教員だった土井政雄が定年退職目前にして書き綴った「私の教職人生回顧文」が出てきました。存命中は自分の子供たちにほとんど仕事の内容を語らなかった父の教員人生を垣間見る事ができ、更にその文章が専門だったクラシック音楽の交響曲の楽章形式に託して書かれているところに一種の感動と面と向かって言えなかった父への尊敬の念を抱くことになりました。その文章を編集することなくそのまま掲載させて頂きます。

  

< 第一、第二、第三、第四楽章 >


昭和62年(1987年)1月
東伯・八橋小学校 土井 政雄

私の教職人生も終焉に近い。五分前のリンが鳴る。思いつくままに過ぎ来し方を、私の好きな音楽に託して綴ってみようと思う。交響曲の楽章にならって。

第一楽章(二十代) 
終戦後の廃墟、混迷、栄養失調から抜け出そうと懸命の努力をする。音楽では、普通、アレグロ(快速に)の快い速度で始まるのであるが、私の教職人生第一楽章は全く逆で、足を引きずるような速さで始まり片田舎の小学校で教科書やノートのない学校生活を過ごした。リンゴの歌や、山小屋の灯、君の名は、長崎の鐘などの歌謡曲で青年団と遊んだ時代である。

第二楽章(三十代) 
学習指導要領により、学習らしい学習が始まった。どうしてか、中学校の音楽教師として過ごす事になり、音楽へのとりこになる。

この頃の教え子が既に四十半ばになっている。いい生徒ばかりだった。今では楽しい中学校の思い出となる。一方、組合活動の厳しい時代でもあった。ストまたスト、昭和三十五年の学テ闘争でその極みに達し、機動隊と激突。即刻、戒告処分。まことに騒々しい時代であった。

第三楽章(四十代) 
再び小学校に戻る。倉吉市立明倫小学校に赴任。同校円型校舎につとめる。同僚、先輩、管理職の方々に恵まれ、ここで小学校教育の何たるかを存分に勉強させてもらった。特にH校長には、八年間もつかえることができた上に、絶大なる薫陶をうけたこと、大恩人として終生忘れ得ないであろう。

第四楽章(五十代) 
管理職になるには、一番むずかしい我々の年代であった。どうにかそのポストを与えられたが、管理職受難の再来で、むずかしい日々の連続である。校長になってからは、急ピッチで毎日が過ぎていく。

交響曲の終楽章は、大体速度をはやめて終わっていくのが常である。が、あまりにもはや過ぎる昨今である。

(おわり)

  ◆

<後記> これを書いた年の3月に父は定年退職した。そしてその2年後の平成元年(1989年)から平成4年(1992年)までの4年間、福庭自治公民館長を拝命し皆様のお力沿いを持ってその職を勤めさせて頂いた。私はその30年後に父と同じ歳でその館長を拝命し現在に至っている。偶然ではあるが何か運命的なものを少し感じる。私は長く県外で勤務していたので勿論、父の館長としての姿は観ていないが、家に残された公民館関係資料には父の自筆の文字がギッシリと詰まっている。今、一緒に公民館の仕事を担って頂いている多くの方々のお名前も登場する。

この父の思いを来年完成する新しい公民館にも残したい・・・父が若い頃、苦労してお金を貯めて月賦で購入した一台の古いピアノが使われないで我が家に置いてあります。完全調律を施した上で、このピアノを新公民館に寄贈し2階の大会議室に置かせて頂きたい・・ピアノが奏でる旋律が新たな地域コミュニテイーの輪を少しでも広げてくれることを願って・・・・・・。

以上

    


編集部 2019年に入ってから、毎月、土井承夫君から公民館館長報告が送られてくる。Anthology演説館(FORUM)に掲載してある。しかし、内容はわれわれ楽友に直接は関係しない地区住民に対するレポ―トである。その中に「館長のちょっと一服コーナー」があり、時にはこのコーナーを抜き出して、面白いエッセーになる話題がある。

そういう時、編集部管理人の一存で「リレー随筆」のページに載せるようにしています。今月は音楽教師であったヨっさんのお父様の記事でした。

先週、土井承夫君が元の勤めの仲間との会合に出るため上京した。品川にある和彊館という会社のクラブでご馳走してくれることになった。


ヨっさん(24期)とカッパ爺(9期) 2019/5/10

一寸お目に掛かれないような超高級なコース料理が運ばれてきた。実に美味しくて何一つ残さずに頂きました。それだけに留まらず、因幡の白ウサギのお菓子や珍しいラッキョウの紫蘇包みもお土産に。さらには土井君がカラオケで歌った歌謡曲のCDまで。何をお返しに送ればいいでしょうか。彼とは初対面にも拘らず、昼から4時までじゃべり続けました。 (2019/5/16・かっぱ)


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