リレー随筆コーナー

大河ドラマ「おんな城主直虎」が放送されて



井伊 悟史 (40期)


2017年のNHK大河ドラマの主人公が井伊直虎という人物に決まったというニュースを聞いたのは2015年。まさに青天の霹靂でした。

折しもその前年に父を亡くし、その遺品にはメモ書き程度ですが井伊家の家系図があり、かの有名な?井伊直弼の家系との分岐点が、なんとなく戦国時代末期にあることがわかってきたタイミングでした


井伊家家系図


飯田井伊家家系図

ドラマの舞台は1500年代前半の、まさに群雄割拠の戦国時代から始まります。

静岡の浜名湖の奥、遠江・井伊谷(いいのや)を拠とする井伊家は、今川家の支配下に置かれ数々の戦乱や困難に見舞われながら、直虎という女性の領主を立てて、なんとかお家を存続させる…そういったストーリーです。

子役3人を中心とした直虎幼少期が、大河ドラマにしては長く最初の4週間続きました。

この中で直虎の許嫁とされた井伊亀之丞(かめのじょう)、後の井伊直親が、家系図によるとまさに私のご先祖となります。

何とも手前味噌な話ですが、少し井伊家のお話をさせていただきたいと思います。

ドラマの第1回でも描写されましたが、亀之丞はわずか9歳にして今川義元から命を狙われ、井伊谷から命からがら山中へ逃げました。真冬にいくつもの山を越え、南信州の市田(いちだ)郷・松源寺(しょうげんじ)に隠れます。現在では、干し柿「市田柿」で有名なところです。

その地で井伊谷に戻るまでの12年もの時を過ごすうち、亀之丞は地元の女性と結ばれ、男児が生まれます。それが吉直といい、これが後に私の属する飯田井伊家の祖となります。

吉直は、亀之丞にとっては国外での子どもだったので、隠し子という扱いになり、歴史の表舞台には登場しません。一方、同じ母から産まれたと思われる妹の高瀬姫は、ドラマにも登場しましたが、その後井伊谷に移り井伊家再興を支えたそうです。

吉直の子孫は現在の飯田市で麹を作る飯田藩御用達の商人となりました。私からも近しい本家筋は残念ながら最近商売を閉じてしまいましたが、分家が麹を作り続けており、ドラマにかこつけたツアーが松源寺と麹屋を訪れたそうです。

また、亀之丞が飯田井伊家に残したとされる守り刀(短刀)は代々受け継がれ、2016年には市田のある高森町の歴史民俗資料館での特別展に展示されました。私も実物を触らせてもらったことがありますが、備前正次作とあり、おそらく亀之丞の時代からさらに数百年遡った時代に作られたものだということです。


守り刀

面白いもので、先ほどのツアーもそうですが、ドラマが発表になると関係(便乗?)する本が続々発刊されました。おかげで、いずれ調べようかと思っていた井伊家の発祥や、先に書いた飯田井伊家への繋がりと現在に至るまでも、これらの本や資料から簡単に知ることができました。

その中に、井伊家の祖は井伊共保(ともやす)公の話があります。赤ちゃんのときに井戸の脇で拾われたと伝えられ、ドラマでもそのことで謎掛けが行われました。もっとも、これは井伊家の伝記による話で、さすがに創作っぽいですが・・・。ちなみに井伊家の家紋は橘ですが、この井戸のそばに橘の木があったことに由来するそうです。

なんとなくルーツを知ったところで、昨年3月にドラマの舞台である浜松市の井伊谷に行ってきました。

私たち一家は、井伊谷や井伊家の歴史を保存・伝承する団体の方々にご案内いただき、ドラマでも重要な役割を果たした菩提寺の龍潭寺(りょうたんじ)や、すぐ近くにある前述の井伊家発祥の井戸、ご先祖・井伊直親の墓などを廻りました。ルーツを知った何百年も昔のご先祖を拝むという、貴重な体験ができました。

井伊谷は三連休ということもあり、特に龍潭寺は想像以上にすごい人出。名物の庭園に進むのにも「渋滞」で15分以上かかり、ご住職も御朱印を書くのが追い付かないと嘆いていらっしゃいました。大河ドラマの影響力というものを目の当たりにしました。

最後に寄った大河ドラマ館も激混みでしたが、お土産品に橘の家紋のグッズがあったので、「便乗」して大量に買ってきました。


井伊共保出生の井


井伊直親の墓

大河ドラマの最初の作品は、あまり知られていないと思いますが、1963年の『花の生涯』で、井伊直弼を主役としたものでした。昨年の直虎は2度目の井伊家を題材とした作品となります。正直、直虎という人物はこのドラマの前まで全く知らなかったですし、直弼とはかなり遠い縁ですが、同じ井伊を名乗る者としては嬉しい限りです。

名前の説明をするときにきちんと聞き取ってもらえず面倒だったり、ローマ字で書くと「II」と貧弱に見えるので厄介な名前だと思ったりしたこともありましたが、堂々と名乗れるようになったと思います(笑)。

ドラマも一年間楽しみ、何度も笑い、涙させてもらいました。おかげで、特別な1年になりました。

最後まで手前味噌な話にお付き合いいただき、ありがとうございました。


次は、同期の森本君の奥さん、44期の森本(旧姓:高瀬)麻里さんにバトンをお渡しします。

(2018/7/1)

    


編集部 井伊くん(40期)から原稿が届きました。あの井伊家の子孫とは驚きました。年寄りには、ついこの間と言ってよい2013年に楽友会9期の同期旅行で浜名湖に一晩泊まりで行きました。その道中で、萬松山龍潭寺を訪れました。井伊家の菩提寺とは美しい庭園の古刹でした。

(2018/7/1・かっぱ)


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