リレー随筆コーナー

ワインって音楽と似てますよね



藤田 信吾(32
期)


一期上の偉大な先輩、細川裕介さんのご指名でバトンを受け取りましたが、家中探してもなかなか楽友関連の写真などが出てこず。よくよく考えたら、大学時代、写真を撮る(撮られる)のを極端に避けていたのでした。今は何かとスマホで写真撮りまくっているのに、アホでしたね。

当時、私や細川さんのほか、先輩の松本さんら東急大井町線沿線に住んでいる人が多く、“大井町コンパ”が度々開催され、私の下宿していたアパートにも夜な夜な誰かが来ては酒を飲むという毎日。そんな中、細川さんとは酒がなくても、炬燵に入って寝ころびながらLPレコードをかけて音楽を聴くだけで時間を過ごしたりしていました。

カール・シューリヒト指揮、ウィーン・フィルのブルックナー交響曲第8番を聞きながら「おー、オケがハモってる!」などと男二人で感動したり、細川さんが大学入学に際して購入されたというストラヴィンスキー「春の祭典」のスコアを見て唸ったり。黙っていても分かり合える、長年連れ添った夫婦のような不思議な間柄(笑)。

当時、武満徹の「うた」の何曲かが初演された時期で、東京文化会館での東京混声合唱団の演奏会に二人で聴きに行き、終演後、武満徹さん本人を捕まえて楽譜にサインしてもらったのを思い出しました。細川さん、あの楽譜まだお持ちでしょうか。

つい先日も、渋谷文化村でのN響「ウエストサイドストーリー」演奏会後、ばったり細川さんと出くわしたのも、ご縁というか、いまだに関心事が同じなんですね。

学生指揮者として活動したころは、「六連」で柴田南雄先生に作曲をお願いして、楽譜の原稿をいただきに自宅に伺ったり、弟子入りがかなわなかった関屋晋先生に指揮をお願いしたり。芸大に潜り込んで、幻の名指揮者セルジュ・チェリビダッケのレッスンを聴講したりと、プロの世界と接点をもったことで、自分もずっと音楽を続けていきたいと思ったものです。

卒業してからも仕事をしながら音楽活動を続けている方は、細川先輩をはじめ、大勢いらっしゃるようですが、私はすっかり縁遠くなってしまいました。

鉄道ファンに“乗り鉄”と“撮り鉄”があるように、音楽にも自ら演奏する(歌う)派と、コンサートに足を運ぶ聴く派に分かれるんでしょう。私はもっぱら聴く派の生活。時々無性に「音楽したい」と沸き起こる気持ちはあるものの、仕事に振り回され、なかなか一歩を踏み出すことはできませんでした。

そんな私が、社会人になって目覚めたのがワイン。卒業旅行でヨーロッパ各地を一人旅した際に、ワインの魅力を感じてはいたものの、本格的に飲み始めたのは20代後半になってから。ボルドー・ポイヤックの銘醸赤ワインに出会い、その味、香り、余韻といった奥深い世界に魅了されました。同じ地域で同じ葡萄の品種でも、造る人によって全く違う味わいになるというのもワインにハマる要素。これ、音楽と全く同じなんです。同じモーツァルトのレクイエムでも、指揮がカラヤンとベーム、あるいはアーノンクールでは全然違う音楽になりますよね。


出版社の小学館に勤務。会社では「インディ」と呼ばれています。新入社員時の取材スナップ。

様々な国でワインが造られるのも、各国に作曲家がいるのと同じようなもの。ワインにはヴィンテージ、つまり年代物がありますが、年によって味が違うという時間軸は歴史にもつながる。横にも縦にも広がりを楽しめるところは、まさに音楽と同じなんだと思います。クラシック音楽が好きな人にワイン愛好家が多いのにも合点がいきます。学生時代、皆川達夫先生がワインがお好きで、授業でよく話題にされていましたが、その気持ちも今はよくわかります。

最近、一期後輩の山岐晋作くん(銀行系の超エリート)に何十年ぶりかに会いましたが、彼もいつの間にかワイン好きに。ワインが好きだと、合う料理も求めるようになるので、美味しいレストランめぐりなんてことにもなります。山岐くんとは、ホワイトアスパラ尽くしで男二人ワインを楽しみました。



山岐くんとのホワイトアスパラ晩餐会。すみません、山岐くんの顔がグラスで隠れてます。


曽根さんのチェンバロ内部に描かれている絵の一部。

共通点のある音楽とワイン。いっそのこと、音楽を聴きながらワインを飲む、というのが究極に素敵で楽しいのではないでしょうか。じつは仕事で知り合ったチェンバロ奏者の曽根麻矢子さんは、シャンパーニュを供するサロンコンサートを年に何度か開催されていて、私も時々お手伝いしています。ワインがお好きな楽友の同好の士を集めて、ワインdeコンサートなんてイベントを企画するのもいいかもしれませんね〜

(2018/5/20・第32期学生指揮者 藤田信吾)

バトンは33期の山岐真作君です。

    


編集部 5月になって、また時の過ぎるスピードが速くなったのか、やっとリレー随筆「今月の第1号」です。

それどころか、4月は1通も投稿が無かったのです。こういうことがあると、わが編集主幹は落ち込みます。皆さん、どんどん投稿してお爺さんを元気にしてください。

一時、ドイツワインのメーカーPieroth(ピーロート)の外交員と親しくなった時期がありました。30年程前です。慶應工学部教授の松下 温さんに紹介してもらった田宮さんでした。私の勤務先、法政大学工学部学部長室で試飲会を開いたり、経営工学科の教員を集めて試飲会を開いたりしてピーロート・ワインを皆さんに紹介していたのです。何時の頃でしたか、ぷっつりと連絡が途絶えていたら、何と田宮さんが亡くなってしまったのです。その後を継いだ社員が田宮さんのお客様リストから私の連絡先を見つけ連絡してきたのです。ピーロート・ジャパンは今ではドイツワインだけではなく、各国のワイン類を手広く取り扱うようになって、我が家では美味しいシャンパンなど家内が発注しているようです。(2018/5/20・かっぱ)


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