リレー随筆コーナー

音楽による祈り


細川 裕介(31期)


卒業以来ずっと仕事をしながら、声楽と合唱指揮の勉強を続けています。現在は主に2つの団体で指揮をしています。

ひとつは私が主宰するコーロ“カプリッチォ”で、アカペラの教会音楽を専門に演奏する声楽アンサンブルです。現在14名のメンバーがおり、1年か1年半に1回程度のペースでコンサートを行っています。次回のコンサートではバッハのモテット2曲(カンタータ28番の第2曲「今こそ主を賛美せよ、わが魂よ」と「イエスよ、わが喜び」)と3人の現代作曲家ブライアース、ペルト、ヴァスクスの作品を組み合わせて演奏する予定です。バッハと現代曲を並置して演奏することによって、バッハと現代を繋ぐ精神性・宗教性の糸のようなものを感じることができればと考えています。

もうひとつのグループはカトリック田園調布教会のエクレシア・アンサンブル(以下「エクレシア」)です。こちらはカトリック田園調布教会の信徒さん数名が発起人となって2004年に設立した声楽とオーケストラの団体で、現在、合唱団には約20名、オーケストラには約10名のメンバーがいます。全国にキリスト教の教会はたくさんありますが、合唱団とオーケストラを所有している教会は他に例がないのではないでしょうか。当初、音楽学者の藤原一弘先生に指導をお願いしていましたが、2009年頃から藤原先生のご指名で私に任せてもらうようになりました。年に2、3回大聖堂や教会内のホールでコンサートを行っています。


エクレシア・アンサンブル(↑クリックで拡大)

ふたつのグループに共通するのは、「音楽による祈り」を共有したい人が集まっていることです。近年、古楽が盛んになり教会音楽のコンサートも頻繁に行われるようになりましたが、精神面で充実感を感じることができるコンサートは、残念ながらあまり多くない気がします。音楽における精神性とでもいう分野で、自分が少しでも人に貢献ができるようになりたいと願い、私は音楽活動を続けています。そもそも私が教会音楽に興味を持ち始めたのは、楽友会を卒業する頃(ちなみに、大学卒業は楽友会卒業の2年後)でした。4年生のときに1年生のとある可愛い女子と一緒にたまたま東京カテドラル聖マリア大聖堂にハインリヒ・シュッツ合唱団のコンサートを聴きに行ったことがきっかけになって、楽友会卒業後にその合唱団に入団することになりました。指揮者の淡野先生には音楽面、精神面の両面で非常に強く影響を受け、キリスト教の音楽のみならず教理そのものにも興味を抱くようになり、気が付いたら先生と同じ教会に所属し礼拝に参加するようになっていました。あのときのあのデートが私の人生を大きく変えたということになるかもしれません。


カトリック田園調布教会大聖堂

今年11月5日「死者の主日」にカトリック田園調布教会でコンサートを行いました。演奏曲目は、パレストリーナのミサ・ブレヴィスから「キリエ」「グローリア」、ラフマニノフ「晩祷」から「生神童貞女や、慶べよ(アヴェ・マリア)」、現代作曲家A.ペルトの「主よ、我らに平和を与えたまえ」、最後にメイン・プログラムとしてフォーレの「レクィエム」です。バリトン・ソロは楽友会33期の尾高雄一さんにお願いしました。この企画はエクレシアメンバーの2人がこの一年間に天に召されたことが契機となって発案されたこともあり、私もほかのメンバーもいつもと同じようなコンサートにしたくなかったので、「音楽による祈り」形式でやってみることになりました。「音楽による祈り」形式とは、私がつけた呼び名ですが、祈り(黙想)に始まり、祈り(黙想)に終わるコンサート形式で、お客様に対しても演奏後の拍手をご遠慮いただきます。レクィエム終演後には合唱団とオーケストラ全員でグレゴリオ聖歌の「パーテル・ノステル(主の祈り)」を唱和しました。聖歌を唱え終わったあと、30秒ほど黙想の時間を持ったのですが、200名ほど来てくださったお客様と演奏者が一体となって、深い祈りを共有することができました。それは実に濃密な感動的な時間でした。


バリトン・ソリスト 尾高雄一さん(33期)


リハーサル風景


聴きに来てくれた楽友会の仲間と

これからもこのような音楽と黙想と聖歌、あるいは聖書朗読で構成される「音楽による祈り」のコンサートを継続的に開催していきたいと思っています。もし皆さまのなかに教会音楽に興味のある方がいらっしゃいましたら、是非カトリック田園調布教会までお出かけください。渋谷から日吉へ向かう東横線に乗っていると、田園調布を過ぎた辺りで丘の上に見える大きな聖堂のあの教会です。(2017/12/9・第31期学生指揮者 細川裕介)

バトンは32期学生指揮者の藤田信吾くんになりました。快諾いただきました。

    


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