Editor's note 2022/6

ジュリアス・シーザーとジャズと煙草
2015年8月号の編集ノートで「煙草とジャズ」というタイトルで書いたことがあります。今月はその中のマルボロの話の改訂版です。
Julius Caeser (100-44 B.C.)

1936年のスタンダードの名曲"These Foolish Things Remind Me Of You"には、

♪You came, you saw, you conquered me.

というくだりがあります。これはトランプのダイヤの「まさかり」を持った「キング」のモデルでもあるジュリアス・シーザーが、紀元前47年に第六軍団を率いて遠征し、現在のトルコ、カッパドキヤの近くの「ゼラ」でオリエント軍を打ち破った時、ローマ元老院に報告として送った簡潔な言葉、

「VENI VIDI VICI(来て、見て、勝った)」の英語訳である

"I came, I saw, I conquered"

をもじっていて洒落ています。

 

https://youtu.be/mL0pgcRlZYk

  
THESE FOOLISH THINGS
Holt Marvell
Jack Strachey and Harry Link
1936
 

A cigarette that bares a lipstick's traces
An airline ticket to romantic places
Still my heart has wings
These foolish things remind me of you.

A tinkling piano in the next apartment
Those stumblin' words that told you what my heart meant
A fair ground painted swings
These foolish things remind me of you.

You came, you saw, you conquered me
When you did that to me
I knew somehow this had to be

Win the marks and make my heart a dancer
A telephone that rings but who's to answer
Oh, how the ghost of you clings
These foolish things remind me of you
 

"VENI VIDI VICI" という言葉は、余程の愛煙家でも気が付かぬかも知れませんが、フィリップ・モリス社の"Marlboro"という煙草の箱を見ると、その中央、王冠と馬をあしらった同社の紋章の下部に、小さく書き込まれていました。

この歌の作者は、作詞Holt Marvell(本名Eric Maschwitz)、作曲Jack Strachey、Harry Linkの3人の英国人によるのもので、1936年のロンドンレビュー「Spread It Abroad」のために書かれた歌である。珍しい英国製のスタンダード・ジャズと言える。


Holt Marvell(1901-1964) and
      Jack Strachey(1894-1972)

イギリスのロンドンからブリストルに行く途中にMarlboroghという市があります。"borough"という語はEdinburgh"の"burgh"(村)と同じような意味を持ち、もともとはヨーロッパ各地に××ブルクという名の都市があります。

アメリカではいくつかの州での自治町村を意味する名称です。コネチカット州やマサチューセッツ州にはMarlboroughという市がありますし、メリーランド州やサウスカロライナ州にはMarlboro County(郡)があります。おそらく"boro"は、"borough"を簡略化した書き方でしょう。"marl"とは泥灰土という意味です。

そのイギリスのマルボロで2002年7月12〜14日の3日にわたって"Marlborough International Jazz Festival"が開かれたのだそうです。どうです?やっぱりMarlboroはジャズにまつわるタバコなのです。

 
1972               1982

"Marlboro Country"という言葉はタバコ産業を象徴する言葉です。フィリップ・モ−リス社のTVコマーシャルで"Welcome to Marlboro Country"というコピーが使われました。カウボーイがマルボロを吸いながら馬に乗って広大な自然の中を歩く風景です。

ところが、スエーデンでは1994年に一人のNSG(Non Smoking Generation)が、その背景に「墓場」を使った禁煙ポスターを作り出して、タバコ産業に強烈なアタックをかけました。これは社会的反響を巻き起こし、スエーデンだけでなく各国でタバコの宣伝がしづらくなる結果となりました。

1200枚のこの広告板が街頭に掲げられたということです。これが"The Advertisement of the Month"の第一位になりました。

これは2004年の同様の嫌がらせ。

「ボブ、俺、ガンになっちゃった」

2011年にもありました。

「ボブ、俺、肺気腫になっちゃった」

煙草を吸うとニコチンが血液に溶けます。すると、血管の壁がビックリしてカチカチに固まってしまいます。

これを繰り返すと、血管は固まってボロボロになったゴムホースのようになります。脳の血管がボロボロになれば脳出血や脳卒中が起こります。心臓の回りの動脈がカチカチになれば心筋梗塞が起きます。肺に入ったニコチンは肺を固まらせ肺気腫になり、やがて肺がんになります。

タバコ会社とは、人の命を縮めるものを販売して金儲けをしている会社です。


現在のマークでは教養が取り去られています。


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