Editor's note 2018/4

楽譜用紙と白銀比・黄金比

いつか何処かで「白銀比とか黄金比の話をしましょう」と書いた。どこのページで書いたのか思い出さないが、ふと思い出したので忘れないうちに書いておきます。
 

市販の楽譜用紙16段(幅460o 高さ313o)

1ページ(230×313)
A4版(210×297)

昔は譜面は手書きに決まっていた。楽器屋に行って譜面の用紙を買ってきた。見開き2ページの用紙が使いやすかった。ここにお見せしている”Music Mistro Please”のアレンジはミルス・ブラザースを参考にして1992年に書いた譜面である。

私はComputer人間だから、オタマジャクシの画像をあらかじめ何種類も作っておいて、譜面を書いた時代がある。まだ、MS-DOSのころである。90年代になって譜面作成ソフトを探しに行った。渋谷のヤマハに行ったら、ドイツ製の譜面ソフトが確か20,000円位で売っていた。Notator Logicとかいう物だった。興味半分で使ってみたが、使い勝手の良いものではなかったらしい。すぐに手書きに戻ってしまっている。

その後、2000年代になって使い出したのがFinale 2001Jだった。若くして亡くなったベースの牧島が「先生、これがご推薦です」と教えてくれたものである。これは14年経っても使っている。しかし、Windows XPまでは相性が良かったのだが、Windows 7以降では、仕様の相性が合わないところがある。それで、Finale 2012、Finale 2014を購入して試してみた。どんな種類のソフトも古いVersionほどシンプルで使いやすいのだ。

  

白銀比(大和比)

われわれが普段、印刷用に使う紙はA版(A4、A3など)とかB版(B5、B4など)が通常だ。我が家の複合プリンタでは用紙の引き出しが4段ついているので上記の4種類のサイズが入れてある。普通の家ではA3なんて使わないが、うちは譜面を印刷しなければならない。見開きのA3を使う。
 

A版はドイツで作られた国際規格ISOの寸法で、原紙A0版は841×1189oで面積は1m、2つ折りして切るとA1版、さらに半分にするとA2版、同様にA3、A4、A5、A6、・・・となる。

我々が使うB版は日本の規格でJISで定められている。B0版は1030×1456oで1.5mである。江戸幕府の公用紙に使われた美濃紙の寸法である。

A版、B版の特徴は、紙を半分に折って2枚に切ると面積は2分の1で、紙の縦横の比率は変わらない紙が出来る。

国際規格ISOのB版は日本のB版とは違うサイズなので要注意。

さて、紙を半分に折って切っても縦横比が変わらないような紙を作るには、どんな寸法の紙を作ればよいかご存知ですか?その謎を解きましょう。



幅=1、高さ=Xの紙を半分に切ると、幅=X/2、高さ=1になります。

縦横の比が変わらないということは、

1:X=X/2:1 つまり X2/2=1 から X2=2

したがって、X=√2=1.41421356…

1:√2という縦横比の紙を作ると、半分に切っても同じ縦横比が保存されます。

B版の紙は江戸時代の美濃紙の寸法だと言いました。それが、1:√2の縦横比の紙なのです。大きい原紙から小さいサイズの紙にするときに無駄が出ないのです。江戸時代に平方根2が使われていたのです。すごいと思いませんか?

1:√2という比を「白銀比(大和比)」と呼びます。紙のサイズは変わっても相似形なのです。

ところが、冒頭の五線紙は白銀比ではありません。郵便はがき(100×148o)だって白銀比ではありません。用紙はそのサイズのまま使うもので、半分に切ることを考えていないからです。

ルート2はどうやって測ったのかって?

対角線を使ったのです。平成人より人間らしいと思いません?

あなたは墓石の対角線の長さの測り方ご存知ですか?江戸時代の人は賢かったのです。簡単に曲尺で測ってしまいます。

という訳で、楽譜用紙の縦横比は白銀比ではありません。レポート用紙や便箋などはA版、B版の白銀比が標準的です。

新聞紙は見開きA1版です。でも、印刷するのはロールされた巻紙のデカイやつを見たことがあるでしょ?新聞社に見学に行くと輪転機を見せてくれます。

  

黄金比
 

長さ=1の線分を

1:a=a:(1−a) となるようにa点で分割したい。

2=1−a より  a2+a−1=0 を解いて、

a=(−1+√5)/2=0.61803…

このような線分の分割を黄金分割と呼び、0.618・・を黄金数と呼ぶ。

関数の最大値(最小値)を与える変数の値を求める問題があります。このような問題は、最適化の問題を数学的に解こうとするときに出てくる問題です。解析的な方法から数値計算の方法まで、いろいろな計算法とその理論があります。実は、このような分野が私の専門分野でした。Operations Reserachの問題にはこのような最適化の問題がたくさん出てきます。

最適化の数値計算の方法に黄金分割法という計算法があります。この算法の中で使うキーになる数値が黄金数=0.618なので、中国では「0.618法」と呼んでいました。
 

縦=1、横=1.618・・の長方形から1×1の正方形を切り取った残りの長方形の縦横比は1:1.618・・になる。黄金長方形と呼ばれる。

1:1.618…を黄金比と呼ぶ。

ギリシャ建築に黄金比が使われたとか、バランスが美しく見えるのは、黄金比を用いているからだとか、そういうこじ付け話が美術やデザインの本にごろごろ出てきます。

 ◆ 


Sheet Music(1940 original) 228×305o

19世紀の終わりごろからマンハッタンのど真ん中に音楽出版社が集まってきました。当時はレコードはまだ普及していません。音楽を売ること=譜面を売ること、だったのです。この地域はTin Pan Alleyと呼ばれ、1950年代初めまで続きました。

⇒ Tin Pan Alley

左の楽譜はSheet Musicと呼ばれ、ピアノの伴奏がついています。また、半端な寸法の用紙に印刷されています。1940年に出版されたオリジナルの楽譜です。

 

という訳で、Sheet Musicの寸法も白銀比でも黄金比でもない勝手な寸法の紙という事が分かります。

  

理屈っぽい人は、黄金比、白銀比、青銅比などを貴金属比といって、連分数で一般的に表現できるんだ。などとお節介を焼くかもしれません。理屈の好きな方は百科事典でも引いて御覧なさい。

もっと意地悪い人は、「お前のWebデザインは黄金比や白銀比を使っているのか?」なんて言い出します。「はい、使う気はありません」

(2018/4/7・わか)


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