Editor's note 2018/3

 ゲーム好きの子供にこんなゲーム問題を出してみませんか?

「子供とは小遣いをせびる動物なり」

そこで、子供が小遣いを欲しがった時に、「よーし!」と、こんなゲームをやらせてみましょう。

封筒 3枚
金額を書くおもちゃの小切手 3枚(本物でもよい)

を用意し、3枚の小切手に金額を書き入れて下さい。金額はご自由ですが、大・中・小と3種類の金額をランダムに選んでください。子供がびっくりするような金額も混ぜてやってください。金額の情報は子供に漏らさないように願います。

さて、このゲームには簡単な手順があります。その手順を流れ図で示しておきます。
 


ゲームの手順

3枚の小切手をそれぞれ封筒にしまい、どれがどれだかわからないようにしてから、1枚ずつ子供に開示していくのです。

子供は自分の前に置かれた封筒の金額に満足したら、それをもらってもよいし、流してつぎに進んでもよいのです。子供が封筒をとったら、それが小遣いとなります。ゲームは終りになります。

子供が@を取らずに流した場合は、いくら入っていたかを見ています。ここが、このゲームのミソです。

2回見送ったときは、自動的に最後の封筒が小遣いになります。一度流した封筒には戻れません。

このルールを子供に説明してやって下さい。そして、どんな戦略で封筒を選ぶかを考えさせるのです。考える時間は無制限です。それまで小遣いはもらえないのですから。

子供の困る顔が想像できるでしょう。頭のよい子にするには、ものごとをただ憶えさせるだけでは駄目です。ただのマニュアル人間になるだけです。自分で考えさせて、自分の決定に従うことを訓練することです。独立自尊の精神を養うというのはこいうことなのです。

はじめは最初のを取ろうかとか、2回目のを取ろうかと考えるかもしれませんが、どうでもいいのです。とにかく、やらせて小遣いをやることです。この次せびりに来る時までに勉強しているかもしれませんし、続けてやっていると経験で何らかの知識を得るかもしれません。

これは旦那が奥さんに「小遣いをくれ」なんて言ったときに、奥様が旦那相手に同じことをやると、旦那の知的レベルが測れるかもしれません。

 ゲームのプロセスを絵に描きました。


ゲームの過程

「判断」のボックスでは、複数の道のどれかを子供が選択できます。赤い道で示してあります。

「神様」のボックスでは、人の判断の入れないところです。神様が定められた確率にしたがって「えいやっ」と道を決めてくれます。青い道で示してあります。青い道には分岐する確率が記入してあります。

赤い道はより優れた道を選んでいくのです。太くしてあります。細い方と比較して下さい。

「大、中、小」は得られた金額の大きさです。もちろん、「大」を取りたいでしょうし、「小」ではがっかりということになります。その下に書いてある数値は、ここにたどり着く確率です。

もうひとつ大事なのは、Aの封筒の中身を見たときです。どちらの金額が大きかったかは、神様しだいです。これは、子供が知り得た大切な情報となるのです。

このような図を「決定の樹(Dcision Tree)」といいます。図の描き方は自分流にやればよいのです。大切なことは「判断の分岐」と「神様が道を選択する確率」をきちんと書くことです。ここでは道の選択確率は等確率ですが、そうでないケースもあるわけです。

 最適戦略を決定する小遣い稼ぎの戦略をまとめると以下のようになります。

戦略1:面倒だから最初に出てきたものをもらってしまう。

この戦略によれば、

大を得る確率=1/3
中を得る確率=1/3
小を得る確率=1/3

となります。

戦略2:最初のものを見送ります。するとA番目のものが出てきます。

このとき、
A>@ ならばAをとります。Aは小でないことが明らかですから、大か中のいずれかの筈です。

A<@ ならばAも見送ります。Aが大ではないことが明らかだからです。それならばBに期待をかけても損はありません。

この戦略によれば、

大を得る確率=1/4+1/6=5/12
中を得る確率=1/4+1/6=5/12
小を得る確率=1/6=2/12

となります。

したがって、後者の戦略2がはるかに有利ではありませんか。絵を簡略化して描いておきましょう。

 よけいな話3つの封筒を見せて、「好きなのを引け」というのが普通の人の考えるゲームです。違いがわかるでしょ。これでは、こどもの得る金額は偶然にだけよるもので、子どもの知恵は無視されます。同じ道具立てでも、ルールを変えると途端に知的になります。

郊外にドライブに出掛けました。そろそろ昼時なのでどこかのレストランに入ろうとしています。「おっ、ちょっと美味しそうだけど・・・もうちょっと先で探そう」なんていっているうちに寂しくなって来て期待外れのレストランに入ってしまったなんて経験はありませんか。

同じような状況はビジネスでも起ります。いろいろな仕事の引き合いがポツポツとやって来ます。儲かる仕事もあるし、儲からない仕事もあるはずです。一旦引き受けてしまうと、手が一杯になってしまって次に来る儲かる仕事を逃してしまうこともあるわけです。

どこで決断するか、手を打つかを決定する問題の類です。別の言い方をすると「どこでストップをかけるか」ということになります。そこで、この種の問題を「最適停止規則問題(Optimal Stopping Rule Problem)」と呼んでいます。

最適停止規則問題にもいろいろなタイプがありますが、60年以上前から研究されています。当時「浜辺の美女問題」というタイトルの論文が書かれたのです。次々やってくる美女を選択する問題です。ただし、全部並べておいて選ぶわけにはいかないという条件がついているので難しくなるのです。お嫁さんを決めるのもまったく同じような状況ですよね。(2018/3/7・カッパ)


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