Editor's note 2017/12

 平らなピアノ

今夜はクイズだよん・・・

 鍵盤の魔術師とは誰? 

 鍵盤の皇帝とは誰?

というクイズの話を9月号で紹介した。その回答の中に偶然出てきた「菅野邦彦」というピアニストの話を紹介します。


菅野邦彦(1936- )

話は1970年ころに遡りますが、六本木に新しくMISTYというジャズクラブが開設される時、菅野さんは1000万円の現金を腹に巻いて、ニューヨークに行き、Steinwayのピアノを買い付けてきたという有名な話があります。菅野さんはエロール・ガーナーに心酔していました。”MISTY”はガーナーによる作曲です。店の名の由来はここからです。菅野さんはミスティの初代ハウスピアニストでした。


沢田        Dolly        木津

そのミスティでDolly Bakerは沢田靖司と木津ジョージに初めて会ったのです。というわけで、沢チンはDolly Bakerの一番の友達となりました。そういう出会いが無かったら、私はDollyとも沢チンとも知り合っていなかったのかも知れません

さて、その菅野さんのもうひとつの話が、本題の「平らなピアノ」であります。先ずは、このPromotion Videoをご覧ください。

 
クロマチック鍵盤(未来鍵盤)

このピアノで弾けば、移調や転調をしても運指は平行移動するだけで、従来のピアノの白鍵と黒鍵を渡る段差と前後への指の移動がありません。全く同じ動きでピアノが弾けます。

こんなピアノ鍵盤があるのを知っていましたか?

このピアノの演奏は下田ビューホテルのCafe Chantantで聴くことが出来ます。ピアノも見られます。


Cafe Chantant

 「,」一つで

「ジャズ詩大全」というスタンダードジャズの歌詞翻訳で有名な後輩、横浜FAROUTのオーナー村尾陸男から毎月のライブ案内やお勉強会の知らせを送って来る。11月19日(日)のお知らせに、こんなことが書いてあった。

今回は [Speak Low] をとりあげます。この曲は格調が高く、ヨーロッパの雰囲気があって、とても有名ですね。1943年にオグデン・ナシュ Ogden Nashとカート・ワイル Kurt Weillが書いています。〈マイ・フェア・レイディ〉と同じくギリシャ神話〈ピグマリオンPygmalion〉(本当の発音はピグメイリアン)に基づいた【One Touch of Venus ヴィーナスの接吻】に挿入された曲です。

ところでこの曲はもともとは1600年に書かれたシェイクスピアの喜劇〈から騒ぎMuch Ado About Nothing〉のセリフ Speak low, if you speak, love を引用しているので、それを知っている人には印象深い曲でしょう。〈から騒ぎ〉からのSpeak low, if you speak, loveという行を使うようにナシュに提案したのはカート・ワイルだったそうで、なにか印象の濃い、古典の香り漂う歌詞になってますね。

問題はこの1行で、困ったことに日本の出版物やネットでは、たいていloveの前のコンマが抜けているんです。で当然ながら訳は〈愛を語る時は声を低くして〉とたいていはなっています。僕は今回外国のサイトを覗いていて、〈, love〉とコンマが入っていて、おかしいな、間違ってるな、なんて思って、あれこれ調べていたら、なんとコンマがない方が間違いだと気づいて、愕然としました。じつは僕も何十年とこの間違いを犯してきたわけです。今回これに気づいて直せて本当に良かったです。 

早速、私の歌詞カードをチェックしてみた。幸いだ、村尾のいう間違いはしていなかった。

最初の一行、”Speak low when you speak, love”の「カンマ」があると無いとで大違いになると、村尾が言っている。その通りだ。今どきは、英語の歌の訳詞がネットにごろごろ出てくる。「カンマ」を意識して訳しているものは極々少ない。殆どが、

       「愛を語るときは、ひくい声でささやいて・・」

なんて書いてある。原詞には、

       「話すときは低い声でね、あなた」

と書いてある。「ね、あなた」という呼びかけなのだ。

さて、歌っているのを聞いて、この区別が出来るのでしょうか?どの歌手の歌を聴いても「カンマ」は聞こえてこない。当たり前か?

  

”Moon River”の2番の歌詞の出だしが、

Two drifters, off to see the world
There's such a lot of world to see

Two driftersの後にカンマがある。Johnny Mercerはちゃんと「,」を入れている。ところが、このカンマを無視した訳詞ばかりが目に付く。BS日テレの番組で画面に出た訳詞では、「カンマ」も「off」も吹き飛んでしまっている。

二人は世界を旅する流れ者
・・・

こんなのもある。すごいね!

流れ者が二人、世界を廻る放浪生活を止めた。
・・・

私の耳には、

2人の漂流者よ、世界を見に岸から漕ぎ出しなさい(もちろんMoon Riverに)
・・・

と聞こえる。皆さんにはどう聞こえますか?

念のために村尾陸男のJazz詩大全をチェックしてみたところ、こともあろうに「カンマ」が抜けています。Moon Riverでも「カンマ抜け」をやらかしていました。その上、この場合は「カンマ」があっても無くても同じだと言ってきました。皆さんはこの説明に納得しますか?

  

昔の映画は音がありませんでした。無声映画の時代です。最初のトーキー映画は「The Jazz Singer」でした。以下は10数年前、小生の先輩格のジャズの歴史の生き字引、新 折人氏からの質問状です。新 折人とは、ニューオリンズを捩ったペンネームです。

英語の大家の先生に質問があります。なにしろ私は学生時代から英文法はからっきし駄目だったものですから。

「1927年にワーナー・ブラザースが世界最初の部分トーキー映画を作り、10月6日ニューヨークのワーナー・ブラザース劇場で公開したが、それは前述したように「ジャズ・シンガー」(The Jazz Singer) というタイトルで、題材は将にジャズであった。この映画ではトーキー歌手第一号となった黒塗りの白人、アル・ジョルスンが画面の中から、

 “Wait a minutes, wait a minutes. You ain't heard nothing yet!”
 『一寸待って下さい。音のお楽しみはこれからだよ!』  

つまり『貴方達はまだ何も聞いていないよ』と語りかけ、"My Mammy" や "Blue Sky"(1927)を唄い、 観客を仰天させた。」

・・ということですが、この英文は二重否定で、ain't heard nothingではおかしく、ain't heard anything になるべきだ、と思います。しかし数種の文献に当ってみても、全部ain't heard nothingになっています。文法的にどうなるのでしょう?(新 折人)

その映画のその台詞の場面がYou Tubeにあります。

 

わたしの返答です。

私もまったく同じです。私は英語の大家じゃありません。

そのままで強調文だという解釈が出来ます。

もうひとつの解釈は”You ain’t heard, nothing yet”とカンマを挿入すると、こじ付けがましいですが、文法的には意味が通じてくるでしょう?

Moon Riverの”Two drifters, off to see the world”は「二人の漂流者よ、世界を見に岸辺から漕ぎ出しなさい」という意味に解釈していますが、マーサーの歌詞カードには「カンマ」があるから分かり易いです。

まともな答にはなりませんが、取り敢えずです。(爵士樂堂主人)

という返事を送り返していました。もともと映画の中のセリフです。「,」があるか無いか分かりません。後の印刷物は単に書き取っただけです。

わかGを困らせようと、折人氏はこうやって難問をわざと寄せてくる一人でした。もう一人、YASという意地悪な英語の達者なオジサンがいます。この2人の共通点があります。W大出身の賢者なのです。(2017/12/7・わかG)


FEST