Editor's note 2015/6


鉄砲ゆり「季節の花 300」より)
 「リレー随筆」を読み返していたら「ゴスペル」人気が盛り上がっていると思えた。’12年2月には山野井友紀さん(53期)から♪ Sing in Unity, Live in Peace ♪という寄稿があり、先々月には樋口頼子さん(23期)から「ゴスペルとの出会い」という一文が届いた。お二人とも夫々の集いで存分に楽しんでおられるご様子で、私のようなロートルまで嬉しくなり、ついついまきこまれて・・・。

 いおこせば古ーい話。今から58年前の1957年。我々は日本青年館における第6回定期演奏会で「ニグロ・スピリチュアルズ」を歌った。オキヨ(4期・井上清君)の選曲・指揮による約50名(高校生+大学生)の男声合唱で、そんな大人数で歌う黒人霊歌の合唱は珍しいことだった、と思う。

当時−1950年代にはこうした曲種を歌う男声四重唱グループが<雨後のたけのこ>のように結成され、ダークダックス、デューク・エイセス、ボニー・ジャックスといったプロのグループも相次いで誕生し、その流行に拍車をかけていた。もちろん楽友会にもそうしたグループが何組もでき、私もその一つに加わって室内楽的アンサンブルの妙を楽しんだ。だが、大合唱の響きは又格別だった。黒人霊歌には奴隷たちの労働歌の類が多い。大勢で歌えば迫力が増し、意気が高まるのであった

 当時「黒人霊歌」といえば男声合唱のジャンルのようだった。が、面白いことに今では、特に「ゴスペル」といえば女声の独壇場だ。それが証拠に、先にご紹介した山野井さんも樋口さんも女性であり、樋口さんの随筆の後に追加されたカッパ(9期・若山邦紘君)の「編集部注」に挿入された数種の動画にも、Mahalia Jacksonを始め女性シンガーが圧倒的である。だが、本来スピリチュアルやゴスペルには女声も男声もない。何れも宗教曲であり教会音楽の一種なのだから「讃美歌」と同様、男女共用の音楽なのである。とはいえ、やはり女性向きとか、男性向きといった曲の好みは厳然としてあり、近年になって人気抜群の♪ Amazing grace ♪ は女性向きの筆頭らしい。YouTubeを見ても軒並み女性シンガーの羅列である。だがこれも、曲の由来を知れば、やはり男女共用の讃美歌であることに変わりはない。

 の曲と同名のイギリス映画が日本でも上映されたことがある。最初はミュージカル映画かと思って見たら、実際は19世紀初頭のイギリスで、若き国会議員たちが活躍した物語であり♪ Amazing grace ♪は脇役に過ぎなかった。肩透かしをくった感じがしたが、後にDVDが出たので買って見直したら、これはこれでなかなか感動的な名画であった。


John Newton

DVD Cover

では、そんな政治向きの話とゴスペル・ソングがどう交わっていたのか?人種差別の原点ともいえる奴隷制度の廃止という、隠れたキーワードで結ばれていたのである。“Amazing grace”の作詞者:John Newton(1725−1807) は数奇な生涯を辿った人で、若くして奴隷船の船長となり、奴隷を家畜並みに扱う非情な男だった。ところが23歳の時、突然転機が訪れ、翻然として自らの非を悟り、深く悔悟して180°転換。キリスト者の道を歩み牧師となった。そして牧会する教会で若き国会議員のWilberforceと出会い、信仰と思想上の師弟となり、それに力を得てWilberforceは国会でのさまざまな障害を克服し、遂に世界に先駆けてイギリスに「奴隷貿易禁止法(1807年)」を制定する立役者となったのだ。この映画は、その法の制定200年を記念した作品であり、底流には“Amazing grace”、つまり「大いなる神のお恵み」があった、という次第なのである。
 

 うした背景を知ると、この曲の歌い方に熱が入る。とても取り澄まして歌ってなんかいられない。歌い出しの“Amazing(アメイジング)”から気合が入る。「想像もできない」とか「ビックリするほどの」といった、歌詞に秘めた作詞者の、強烈な神の恵みへの感謝の念をどう表現するか。驚きの表情を顔面いっぱいに、目を丸くしながら「アメイ」にアクセントを置き、少し間を引き延ばしながら歌う。初行後半の“wretch like me !”にも激しい感情が渦巻く!“wretch”を俗語でいえば「やくざ者」だ。Newtonはここで、奴隷船の船長であった頃の自分-----奴隷たちを狭い船室に閉じこめ、餓死させたり、レイプしたりして平気だった-----そんな自分を恥じ、あえて“wretch”という嫌な言葉で自分の過去を告白したのだ。だから「迷いしこの身(讃美歌21#451)」「愚かな我(聖歌集#540)」「この身の穢れを知れる我(聖歌#229)」といった抽象的訳語では上品過ぎる。ここは自らをさげすむ気持ちもあらわに“wretch !”と、ハッキリ吐き捨てるように発音しなければならぬ!

 いったことで、歌詞の解釈は詞が現存し、作詞者の自伝や評伝もあるので分かりやすい。が、どの曲を使ったらよいのかで迷う。もともと讃美歌は替え歌自由の世界。韻律さえ合えばどの詩をどの曲で歌っても構わないことになっている。だから、欧米には歌詞だけの「讃美歌集」が多い。Newtonが親交のあった詩人William Cowperと組んで1779年に出版した“Olney Hymns”もその一つで、“Amazing grace”を含む348篇の、いわば宗教詩集であり、曲は付いていない。

そこで近年、この曲の人気が高まるにつれ、世界中のHymnologist(讃美歌学者)がその源流を探っているのだが、未だに20種以上の同工異曲があり、「これぞ定番!」と言い切れる曲はない。それかあらぬか「ゴスペルの女王」と異名をとったMahalia Jacksonは、定番なんぞお構いなく、色々なアレンジで、しかも独特なアドリブを加えて歌いこなしていた。それこそゴスペルの醍醐味!と感じ入ると同時に、素人は何の自信もないから迷うのだ。今のところ私は「聖歌集(日本聖公会)」の540番が一番原曲に近く、一番手に入りやすい定番と思っているのだが・・・。

 

 人霊歌やゴスペルに関する好著を紹介しておこう:小川洋司著「深い河のかなたへ−黒人霊歌とその背景」(音楽之友社/2001年刊)、大塚野百合著「賛美歌・聖歌ものがたり」と「賛美歌・唱歌とゴスペル」(共に「創元社」/前著は1995年・後著は2006年刊)。

(オザサ:2015年6月7日)


 Special Photos from Mr. Jack Lorickかつて、アメリカの80歳になるという元気なお爺さんから世にも珍しい写真が9期の山内彦太(ひこG)のところに定期便で送られてきました。その方はジャック・ロリックさんといい、ひこGが勤める会社の米国現地法人で社外役員として迎え入れていたロサンゼルスに在住の名士中の名士です。ロリックさんのところには、世界中の取り巻きから珍しい画像が送られて来たのです。

2010年の初夏にロリックさんは亡くなってしまいましたが、それまで数知れないほどの写真が送られてきました。ひこGはせっせとわかGに送ってくれました。すべて整理して保存してあります。

これまで一度も「楽友」に紹介したことがありません。突然、古いことを思い出して皆さんにそのほんの一部をお目にかけたいと思います。

こんなすごい写真が出てきます。タイトルをクリックしてください。

その1 世界一の橋(フランス) The Highest Bridge(France)

その2 ボリビアのハイウェイ(南米) Highway in Bolibia

その3 子供の仕業 Works of Children

その4 Husband of The Year Awards

その5 温暖化の証し Global Warming

その6 犬猫珍景 Dogs and Cats

(2015/6/7・かっぱ)


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