▼ 実は、この曲のことを知ったのは5年ほど前のことだ。英文学者で、讃美歌研究で著名な大塚野百合さんの「讃美歌・唱歌とゴスペル―『荒城の月』『オー・ハッピー・ディ』などをめぐって(創元社06年11月刊)」という本に載っていたから。それによると:
・・・・・この曲の原点はある牧師が若者に<人生の意味をわからせ、自殺を思いとどまらせよう>と思い立って自ら作詞・作曲し、ある伝道集会で歌ったことにある。その演奏が深い感動をよび、実際にそれを聴いて自殺を思いとどまり、再起した女性もいた。
また、韓国のイ・ミンソプという人は97年、その時の記憶を基に韓国語による詞・曲を書き起こし、元曲に新たな生命力を吹きこんだ。それがソウル市内の教会で青少年に歌われ、次第に韓国全域に普及してブームとなり、中国、台湾そして03年頃、日本に渡ってきた。
いわば日韓合作の曲だが、残念ながら、その基となった日本人牧師の名やオリジナル詞曲は不明である。だが、現在上掲の訳詞(神 明宏氏他2名の共訳)で知られるイ・ミンソプさんの作品を日本で広める拠点となった人と場所は明らかで、長崎バプテスト教会の友納靖史牧師がその人である。
師ご夫妻はある晩教会前の川原で騒いでいる若者たちに気づき、そこに家庭不和で家出して、泊る場所もない少年少女もいることを知って教会に招き、あたたかくもてなした。その仲間は数カ月の内に10数名に増え、中には親の暴力で家に帰れない長期間逗留者も3、4名いた。だが教会は門を閉ざさず、かえって友納牧師を中心とした教会全体が積極的に彼等と交わり、共に涙しつつ痛みを分ちあい、共に「きみは愛されるために生まれた」を歌って、真の愛への門戸を開いたのだった。
その歌声はやがて教会の壁を超えて市内の全小学校に広がり、やがて特製のCD(題して「希望のうたごえ」)ができるに及んで新たな展開をみた。そのCDを県下全域の学校や養護施設に配ろうという運動が起き、歌声の輪はさらに大きくなった。それはその頃長崎で相次いだ幼児虐待・殺害事件に心を痛め、人間不信に陥り、暗澹とした思いに沈みがちだった長崎じゅうの人々の心に呼応し、まさに字句通り「希望のうたごえ」となって普及し、皆の愛唱歌となったのだ・・・・・。
▼ <そのCDのその後は?>。フト気になって調べてみた。すると今は東北地方で活躍していることが分かり嬉しくなった。<それなら「楽友」にも何かできることがあるのではないか>と思えたからだ。
「楽友」には仙台で被災した仲間がいる。だがその人に限らない。東北地方で「泣き、嘆き、憂い、悲しみ(BWV.12)」に沈んでいる同胞が、他にも多くおられることは明らかだ。もちろん楽友たちは既にいろいろな形で被災者救援にカンパされているに違いない。だが、問題は長期化し、寒冷期を迎えて事態は深刻化している。さらに何かしてさしあげたいと思うのが人情であろう。
そこで一つ個人的な提案をしたいのだが、このCDを贈る運動に参加してはどうだろう。郵便局から一口2500円を送金すると、宮城県下被災地の小中学生に「希望のうたごえ」1〜2枚が届けられる仕組みになっている(詳細は下記URL参照)。
収録曲は「きみは愛されるために生まれた」と「ビリーブ」の2曲だけだが、それがソロや児童合唱や珍しいパイプ・オルガンの独奏といった多種類の演奏で楽しめるし、伴奏だけのカラオケ・バージョンもあるので何かと便利に使える。
それに、「ビリーブ(作詞・作曲:杉本竜一氏)」という曲が実にいい。私は知らなかったが最近は幼稚園・保育園児から高校生まで知らない者はない、といわれる程ポピュラーな曲で、特に卒園・卒業式で「蛍の光」に代えてよく歌われているらしい。NHK「生き物地球紀行」のエンディング・テーマだったそうなので、一度は耳にした方も多いと思うが、大人たちにも、もっと知られていい曲だと思った。歌いやすく、ジーンと胸に沁み入る歌詞は被災し、不幸な境遇に陥った方々をお慰めするにふさわしい調べである。「きみは愛されるために生まれた」と共に絶妙のカップリングといえよう。
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▼ 参考記事(URL):
@ CD「希望のうたごえ」を被災地・宮城の子どもたちに贈る募金活動の応募要領
http://kibounoutagoe.web.fc2.com/
A この募金活動の主宰者
郵便局振替口座・加入者名: 「長崎から希望の歌声を」実行委員会
問合せ先: kibonoutagoe@goo.jp
「希望の歌声」宮城実行委員会
後援団体: 仙台放送、仙台リビング新聞社
B YouTubeで試聴
A)ある保育園の卒園式での光景「ビリーブ」
B)ある老若男女グループによる「きみは愛されるために生まれた」
C)視聴者数1の「きみは愛されるために生まれた」(ソロ・ヴァージョン)
(10月5日・オザサ)
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