私だけではなかった。現役時代に高校・大学一体型の楽友会創設に連なり、そのよさを体得してきたはずのシニアOBGたちでさえ、大学と高校が隔絶している事実に気づかず、その事態を長年にわたって放置し、結果として三田会も大学楽友会も、その故郷である高校楽友会の存在を無視してきたのだ。何たる怠慢、何という不幸!
▼ <このままではいけない!>という思いに駆られて他の状況を視ると:
塾内音楽団体の代名詞的存在の「ワグネル・ソサィエティー」は、現役に大学と高校(塾高+女子高合同)のオーケストラ、大学と志木高の男声合唱団、それに大学の女声合唱団の5団体があり、その上に三田会や出身者グループがあるが、全体としてはオケ・男声・女声の3パート別で、夫々が自主的な演奏活動を行っている。
また昨年創部100周年を祝った「マンドリン・クラブ」には、大学、高校(塾高+女子高合同)、志木高および中等部の現役4組織があり、これに三田会を加えて全塾的「All
KMC」という本部機構を構成している。それによりワグネルとは対照的な中央集権型のヒエラルキーで全体のスケジュールを調整し、まとまった演奏活動を展開している。
これ等の先輩団体に比べ、戦後生まれの楽友会の歴史はまだ浅いが、人間でいえばとっくに還暦も過ぎた満63歳。それにしてはあまりにも進歩が無い。「現役」といえば「大学楽友会」しかなく、その母体である「高校(塾高+女子高)楽友会」は「竹島(独島)」化してしまった。
▼ <こんなことでいいのか>という思いに駆られて先輩に相談したり、ちょうど当番期にあたっていたので、新年会(10年度)に高校の現役を招待する提案もしてみたが、皆の反応は冷たかった。
<ムリもない。高校・大学が断絶して半世紀以上の時が過ぎている。あまりにも唐突だったかもしれない>と反省したものの、一方では<それにしては不思議だ。大学生のホームページに誇らしげに林光、小林亜星、若杉弘といった諸先輩の名を掲げているのだから、音楽愛好会や高校楽友会の存在を知らないはずはない。それなのになぜ一番身近な高校と連携していないのか。また楽友会全員の愛唱歌は亜星さんの「青春讃歌」ではないか。それなのになぜその曲の背景にある楽友会員共通の心の故郷、高校楽友会の現状に無関心でいられるのか>という、強い疑問を感じた。
そこで次に「オール楽友会ファミリー・コンサート(AGFC)」を提案した(この「ファミリー」には、当然のことながら「高校楽友会」もその一員、という意味がある)。この種の事は代表幹事会や総会での審議事項だが、とりあえず新年会担当者の会(x4期)で打診したところ、これには皆も賛同してくれた。しかも折よくこの時一緒に働いた深井剛良(24期・会長)、海野英俊(34期・事務局長)の両君が、共に10年度の総会で三田会新役員に選出されたので、その後の段取りはスムーズに運び、正式行事として公認され、7月2日(土)にこの画期的なコンサートが日吉で挙行されたのである。
当日はプロジェクト・チームの面々の周到な準備と何回もの熟議が実り、すばらしい演奏会となった。個人、グループ、団体の演奏は何れも見事で、老若男女が相集い、入れ替わりステージに立ち、またある時にはステージも客席も一体となって合唱するさまは、まさに「ファミリー」ならではの心あたたまる情景となって一同の胸をうった。
それらの光景は当ホームページ上に特設した「AGFC」という新コーナーでお楽しみいただける。これは小西みはるさん(32期)とカッパこと若山技師長の協力で実現した、これも楽友会初の、ながーい実況録画(最終的には合計約3時間)である。
参加者の中で特筆すべきは第3部の冒頭を飾った「忠友会」の出演である。この団体は「高校楽友会」だけの出身者たちが結成した混声合唱グループで、「高校楽友会」現役とのつながりは「大学楽友会」や「楽友三田会」よりずっと濃い。昨年まではワグネルの「オムニバス・コンサート」に高校現役有志と共に参加していたが、今回は自発的に「楽友会ファミリーの一員」として鞍替え出演してくれたのである。
今回は高校が試験シーズンだったため、現役は出演できなかったものの、練習には塾高から個人ベースで6人も参加したということだ。岩崎慧一君(57期)からの「今年は塾高からの入団者が2名あった」という報告(大学楽友会コーナーの「現役便り」から)と併せて、真に心強いニュースではある。
昨年の定演で学生指揮者を務めた橋本亜依さん(56期・女子高卒)が、近年では唯一人の「高校(女子高)楽友会」出身者であったことを思えば、こうしたニュースは近来にない関係改善への予兆と思えて嬉しい。
なお、この忠友会ステージ写真を見ると、女声陣に黒のスカートとグレーのロング・スカートの人たちが交じっている(ビデオ・クリップ参照)ことに気づく。後者は三田会合唱団所属の女子高OGの人たちだが、ここにも心あたたまる美談があった。
というのは、そもそも塾には女子学生が少ない。いきおい混声合唱でも女声が少なく、声部バランスを調整するのに苦労する。その状況は楽友会創立の頃も今も、そして忠友会でも変わりはない。特に上述した試験スケジュールの関係で、女子高からの参加がムリとなったため、忠友会は他に女声の応援を求めざるを得ないことになった。
そこで筑紫秀子さん(4期)を中心とした三田会合唱団のOGたちが積極的に動き、自分たち本来のグループの練習や出番で多忙であったにもかかわらず、掛け持ちの友情出演で忠友会のコーラスに花を添え、指揮の岡田先生も大いに安堵された、ということだった。
▼ こうして初の「オール楽友会ファミリー・コンサート(AGFC)」はめでたく幕を閉じた。この催しが成功したことは、コンサートに引き続いて行われた交歓会の盛況や、会員間を飛び交い、編集部にも寄せられた数多くのメールなどによく現われていた。コメントも多く寄せられたが「AGFCを総会・新年会と同様、ぜひ楽友会の恒例行事とし、毎年継続して開催して欲しい」という意見が他を圧していた。
確かに千名を越す規模の楽友会にとって、年に一度の総会・新年会だけでは物足りない感がある。歌うにつけ、歓談するにつけ時間が短すぎるのだ。しかし、AGFCなら演奏に集中できるし、1年の成果を発表する機会にもなるし、意外な個性を発見する喜びもある。そして「仲間がそろったら」終演後の現役との「交歓会」で喉をうるおすという楽しみもある。
・・・・・ということで、編集部としても、AGFCが今後も続けて開催されることを強く期待する。実行委員の持ち回り制や予算措置など、これから検討すべき課題も多いだろうが、50周年記念Projectのことを思えば何ということはない。皆で知恵を出し、協力しあえば道は自ずから開ける。がんばっていこう!(8月7日・オザサ) |