▼ ホールに戻ると、きらびやかな舞台衣装に身を包んだ5人組がモーツァルト・オペラの5重唱を披露していました。出演者の殆どはワグネルOB・OGのようですが、必ずしもワグネルに限らず、例えばあるOBが指導している職場の合唱団なども参加していました。どちらかといえば熟年層が多かったようですが、55年以前の卒団生だけで組んだ「アゲイン」という男声合唱グループがあったり、4年前に卒団したOB
のソロもあったりで、実に幅広い年代の人々が一堂に会し、それぞれの特徴を生かして楽しんでいる光景には、さすがワグネル、と思わせる歴史を感じました。
▼ さていよいよ「忠友会」の出番です。先ずはその人数の多さに一驚しました。男声26名、女声21名、それにピアノ、打楽器の伴奏者と岡田先生を加えて51名の出演者がズラリとステージに並びました。その中には女子高生の姿も交っていました。曲目はモーツァルトの“Ave
Verum Corpus”と小林亜星氏の「青春讃歌」の2曲。岡田先生の颯爽たる指揮ぶりと、それについて堂々と歌っている皆さんの姿を見ていたら、あたかもそこで楽友会の後輩たちが歌っているような錯覚にとらわれました。けれどもそれは夢想に過ぎず、実際に歌っているのは紛れもない「ワグネルのOB・OGとその仲間たち」であり、楽友会とのつながりを思わすものはただ岡田先生の後ろ姿と、女子高生の制服だけでした。
▼ コンサートも終わり、チョット複雑な気もちで外に出たのはちょうど日没の頃。このAnthologyの随筆欄に長谷、日高両君が感慨をこめて記した「夕映え」の美しさを思い出し、グランドやイチョウ並木を歩き廻ってみたのですが、そこにも既に昔日の情景はありませんでした。世の変転は実にクールです。一時の感傷を押し流し、目に見えない力によってこの世を変えてしまうのです。
今となっては、若いワグネルのOB・OGの皆さんに感謝しなければなりません。かれらは、楽友会がその存在を殆ど忘れかけていた名誉三田会長兼名誉指揮者の存在を私たち以上に大切にし、また、楽友会が全く忘れていた高校楽友会との提携活動を想起さてくれたのです。
▼ <我々ものんびりしてはいられない。楽友会や楽友三田会は今のままでいいのか。現状に満足するだけで、ただ年数を重ねてきただけではなかったか。すべて創立者任せではなかったか。新年会や交歓会はあっても、同期や同年代のごく限られた交友にとどまり、世代を超えた交流、それによって伝統的価値観や制度を維持共有するための意見交換や、その機会設定を怠ってきたのではあるまいか・・・>といった様々な思いに駆られつつ、一人わびしく家に帰りました。(オザサ・5月7日) |