記念資料集有馬語録)

楽友会に望む

有馬大五郎(初代会長)


社会人間というものは、それが学者であろうが事業家であろうが、その凡る段階において着々と前進している様に見えて、案外そうでなく、工場の流れ作業の一角を受けもったような仕事で日々を暮しているものであります。そうして自分自身の仕事の為に必要な新発見や新着想はその人間の幅に因って獲得出来るのであって、深く掘り下げようと努力していても幅がなければそれは所詮平凡な流れ作業に終っているようであります。新発見や新しい着想は社会人が夫々の仕事に打ち込んでいるときばかりではなく、寧ろ自由にものを考え得る余暇にその多くの瞬間が含まれているように思われる。

こんなことを考えて見ると、楽友会会員で政治に、経済に、文学に、法律に、医学及び其他の科学に志されている諸君の将来を非常に頼母しく思うし、この音楽会に聴き手となって来て下さった方々の為にも楽友会は大変良い事をしていられることになるのです。

情操教育と言うものが名演奏を目的として芸術鑑賞の能力向上のみを需めているのでなく、道徳上の判断は勿論のこと新しい世界を生む母体であることを強調して楽友会の計画を意義づけたいと思います。社会の為に或特定の音楽会ホールと言う場所ばかりでなく、凡るところに出演し且指導をして貰いたいと希います。

第6回定期演奏会プログラム:日本青年館ホール(57年11月30日)


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