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歴代幹事長語録

新年度の出発にあたって

 

斎藤成八郎(5期・第5代)
春の訪れと共に、楽友会も味わいのない冬眠から目覚め、再び活動を開始しますが、それと同時に私たち一人ひとりの心も次第に活気を帯び、途方もない大きな望みに躍動します。これは楽友会生活が私生活と結びついている者ならば、誰でも感じることでしょう。冬の間去年の活動を反省し、足りないところを補おうとか、新しいものを協力して創りだそうとか、とにかく一層の躍進を期して新年度の活動にのぞまれることでしょう。

芸術的な目的をもってではなく、コーラスの楽しみを一層大きくするために、何らかの新しい手段を考えるのが当然のことであります。とにかく、新しい出発にあたって、色々な面で一層の進歩を願って意欲に燃えるのが、先ず会員としてあるべき姿だと思います。私たちの会にあっては、この意欲の集中においてのみ一致団結があるのです。交友関係その他は、これから派生したものに過ぎません。

私たちは好きな音楽をより深く追求するために、あるいは、音楽による楽しみを追求するために楽友会に入りました。いずれの場合にも根本的には音楽に固着することによって目的を果たすことができるのです。このような音楽への固着がなされるのが当然でありましょう。この固着によって私たちは、人間的なあらゆる障害を排除して、赤裸々な他人の心の中に入っていくことができるのです。また同時に、この固着は、発展の意欲を生みだします。このような固着と、それから生じる発展への意欲がコーラスに対する情熱というべきものでしょう。私たち一人ひとりは、この情熱をもっていなければなりません。そして更にこれを、楽友会生活の中心としてうちたてていかねばなりません。それによって私たちは不満、苦痛、困難等の多数の障害を乗り越えていくことができるのです。

「情熱」は練習に張りをもたせます。その結果、練習に面白さが加わり、また、一人ひとりの上達と同時に、私たちのつくり出す音楽を高めていくことはいうまでもありません。そして一人ひとりに情熱がなければ、張切っているのは指揮者だけであり、練習はたるみ、私たちのコーラスにも進歩はみられません。ある人がこんな事をいっていました。「自分は家を出てから練習場に着くまで、練習のことだけしか考えないことにして、精神統一に心がけています。そうすると練習にもファイトがわくし、とても楽しい、張りのある練習ができるんです」と。この人は練習が面白いから出るのではなく、自分で練習を面白くしているのです。この練習への固着と向上の意欲は、あらゆる障害を排除できるところの非常に強くたくましい態度です。私たちは、このような情熱の結果によって、澄み切った心のハーモニーを生み出すことができ、私たちの歌に生命をもたせることができるのです。一人ひとりの歌は、単なる音の結合のみではなく、意欲の結合によって有機的つながりをもつのです。私たちは生きた歌を創りだすために、もっともっと情熱を燃やさなければなりません。

私たちの発展のためには、このような積極的態度と共に、これより比較的消極的態度ではありますが、責任感が要求されます。私たちはコーラスにおいて、一人ひとりがいかに重要かを深く認識しなければなりません。コーラスでは、一人ひとりが特色ある声をもっていると同時に、それが全体の融和剤となっていることが多いのです。従って、一人が抜けることによって、パートの声がまとまらなくなることは容易に考えられます。また、一人の無責任な行動によってバランスが崩れることはいうまでもなく、いつ迄も全員が最高のハーモニーをつかめないことにもなるのです。私たちは一人ひとりが自覚をもち、責任感をもたなければなりません。

しかしそれだけでは進歩もなく、また、私たちが楽友会に入った意義も見出せません。そこには必ず、前に述べた積極的態度がなければならないのです。そして私たちは、いつも自分達の力で、新しいものを創りだしていかなければならないのです。脱皮の時期にある会の新しい発展のために、過去の基礎の上に立って未来の夢を見なければならないのです。過去の夢を追ってはなりません。産みの苦しみを続けてこられた先輩の苦労を受けついで、私たちも、大いに意欲を燃やしていこうではありませんか。

「楽友」第13号(59年4月)


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