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歴代幹事長語録

第1回発表会と今後の方針について(抜粋)

 

伴 有雄(1期・初代)
楽友会も発足して1年。現在及び将来に幾多の困難を有しながらも、既に第1回の発表会を行い、まがりなりにもその存在を明らかにしました。そこで私たち楽友会員は、この会をどのように発展させたらよいのか。この事について私の所感を述べ、大いに皆さんの批判を受けたいと思います。

個々の人間について考えてみますと、知性ある人間は、人生自体に目的があるか否かにかかわらず、何らかの目的を自ら生み出して、生活の方針を立て、それを指針として未来に向かって前進します。これを合目的といいます。しかし、人間は社会的動物なので、社会的にも何らかの規範のもとに生きてゆかねばなりません(中略)

私はうるさいほど、目的々々と強調しますけれども、それは私たちが単なる烏合の衆に終わりたくないと思うからです。私たち楽友会に社会的存在意義があるとすれば、そこには当然何らかの目的と義務がなければなりません(中略)

楽友会は、現在はそうでないとしても、将来は大学生や卒業した社会人が中心となり、高校の音楽愛好会もそれに属する組織となるので、慶應という学校を中心とした団体であるとはいえ、一方では学校という小さな社会から離れたもっと外的存在となるのです。つまり社会の一部門を占める団体であり、そこに自ずと社会的性格と意義が生まれてきます(中略)

だから楽友会の行動も、ある意味では大きく社会に反映します。そうなると私たちはどうしても社会的に自覚し、良心というものがある以上、社会への奉仕ということを念頭に置かねばなりません。ここで注意しなければならないことは、私たちは専門家と違って素人の集まりですから、専門家とは違った役割をもっているということです。私たちは素人だから面白く楽しんでさえいればいいように思われるかもしれませんが、決してそうではないのです。

現在の日本において、むしろ素人の方が専門家より重要な任務を負っている場合があるのです。音楽の場合もそれをいい得るような気がします(中略)。私は各国の民謡であろうとLiedであろうと、手当たり次第に歌ったらいいと思います。しかも日本の歌も決して忘れないようにしなければなりません。学校で歌い、職場で歌い、家庭で歌うのです。

そして私たちはみんなで歌うことを覚え、10人集まれば、自然とハーモニーが流れるようになりたいものです。私たち楽友会の究極の目的はそこにあると思います。常に私たちは歌で人々に呼びかけ、歌から歌えと日本人の美しい感情をお互いに伝えあうのです。そうすれば私たちの生活は経済的には貧しくても、精神的にはすばらしく豊かになり、私たちの日常生活は楽しく明るく健全になってくるのです。

第1回の発表会において私たちは無我夢中でした。とにかく私たちは自分達の成果を人々に知らせたかったのです。あの時はそれでよかった。今後私たちに精神的ゆとりができていくに従って、みんなに呼びかけるように歌いたいものです。

演奏会の時、聴衆の中から私たちの合唱に相和して歌う声が聞こえても、決して不自然ではないと思います。演奏者と聴衆、あるいは私たち一般民衆の感情なり感激なりが、渾然一体となることこそ最も望ましいことではないでしょうか。これこそBeethovenの第9交響曲の中の“Seit umschlungen, Millionen! Diesen Kuss der ganzen Welt!”百万の人々よ 相抱き この接吻を 世のなべてに与えよの偉大な精神だと思います。

皆さん、私たち青年には実に色々の大きな課題が双肩に投げかけられております。私たちはよほどしっかりした青年になり、いかなる困難にも決してくじけることない、力強い筋金入りの人間にならなければなりません。将来の日本を創り上げるためにです。

そして常に社会への奉仕と全人類の平和のためにのみ役立とうではありませんか。争いを避け、平和と幸福という大前提のもとに生きていきたいと思います。ずいぶん長々と書きたてましたけれども、最初に書きましたように、皆さん方の積極的な批判をお待ちしております(後略)

「楽友」新・第2号53年3月)


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